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コールセンターのKDDIエボルバが社内の電話対応を完全撤廃したワケ

» 2022年08月03日 08時00分 公開
[松浦立樹ITmedia]

 コロナ禍によるテレワーク主体だった働き方から出社も組み合わせたハイブリッドワークへ徐々に移行する中、より効率的な働き方を模索しようと、社員同士のコミュニケーションツールにも変化が起きている。AIを使ったチャットbotやFAQシステム、マニュアルツールなどを導入し、コミュニケーションのDX(デジタルトランスフォーメーション)を進め、業務効率化を図る企業が現れている。

 一方、電話やメールの社内問い合わせを継続する企業も依然として存在する。AI SaaS製品の開発・販売を手掛けるPKSHA Workplace(東京都文京区)の調査では、従業員規模5000人以上の企業で1日5件以上の電話応対をする300人のうち40%以上が、1日当たり20件以上の電話応対をしているという。また87%の人は電話応対を削減したいと答えていた。

PKSHA Workplaceの調査結果

 そんな中、コールセンター事業を手掛けるKDDIエボルバ(東京都新宿区)が、社内の電話対応を撤廃したと7月27日に発表した。

 電話対応自体を事業とする同社が、なぜ・どのようにして社内の電話サポート撤廃を実現したのか。同社とともに実証を進めた、PKSHA Workplaceの杉原雅人執行役員は「コミュニケーションもAIを使うことでデータ分析できる時代になった」とし、撤廃までの経緯を説明した。

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コミュニケーションもデータ分析できる時代

 KDDIエボルバが電話対応を撤廃できなかったのは、人材育成に課題を抱えていたためだ。電話の話し手と聞き手の1on1コミュニケーションになる特性上、他者にナレッジを共有しにくく、業務が属人化していたという。人材育成のためのマニュアル作成などが難しく、1人前の人材を育てるには2年近くかかると想定していた。

 またコールセンター事業の特性上、コミュニケーションにおいて“電話”は常に上位に位置付けされていたという。社内ヘルプデスクで1日当たり平均100件、月2000件に及ぶ入電に対応していたにもかかわらず、電話の代替えとなるツールの導入をこれまで推進していなかった。

電話応対を撤廃できない理由

 これらの課題を解消するため、KDDIエボルバは21年3月に社内問い合わせ用AIチャットbotを導入。AIが無人自動回答をすることで、約5割の問いを自動解決できたという。その後7月には、PKSHA Workplaceの対話エンジン「BEDORE for Microsoft Teams」を入れ、Teamsに社内ヘルプデスクを統合。AIチャットbotに加えて、有人で問い合わせに対応する仕組みも築いた。

 杉原雅人執行役員は「この時点でヘルプデスクへの電話問い合わせは約5割減少した」と話す。また、Teamsにヘルプデスクを統合したことで、質問数や自動化率の可視化が可能に。問い合わせが多い質問や、その解決率などが判明し、課題なども明らかになった。その上でさらなる改善活動を行えたという。

 22年2月には電話窓口を一時閉鎖し、Teamsのみでヘルプデスク対応をするトライアルを実施。2月はTeamの応対数は無人・有人含め1.5倍に増加した。3月には再び電話応対を始めたが、閉鎖前までと比べ応対数は減少した一方、Teamsへの問い合わせは増加したという。これらの検証を重ね、7月に完全撤廃したとしている。

電話撤廃までのフロー

 「この施策の成功要因には、コミュニケーションもデータで仮説検証分析ができる時代になったことが挙げられる」と杉原雅人執行役員は話す。電話からデジタルチャネルにシフトしたことで電話応対の内容を記録できるようになった。このデータを分析し改善策を打つ、またはAIで自動化することで、今まで属人化していた業務の仕組み化を可能にしたという。

 他にも、社員視点での改善策を途切れることなく運用できた点や、データを可視化したことで経営者の意思決定がしやすい環境となった点なども要因に挙げた。

「時間や場所を気にせず働ける未来が3年以内に実現する」

 PKSHA Workplaceは7月27日、KDDIエボルバの実証で得たナレッジを生かし、自動FAQ生成機能とAI対話エンジンを持つ「AI ヘルプデスク for Microsoft Teams」の提供を始めた。これによりTeams上で全社ヘルプデスクを構築でき、問い合わせ履歴をAIで解析すると社内FAQを自動生成することも可能という。

「AI ヘルプデスク for Microsoft Teams」の仕組み

 さまざまコミュニケーションツールの導入が進む中、FAQの作成や複数チャネルからの問い合わせの管理、利用促進における全社への周知など維持コストや定着化などに課題を感じる企業は少なくない。PKSHA Workplaceは、AIを活用することでこれらの課題の解決に取り組んでいる。

 「電話やメール対応でのストレスをなくし、時間や場所を気にせず働ける未来や、ITツールで集計した対話ログを分析してナレッジをため、技能継承やスキル育成が自動化する世界が3年以内に実現すると考えている。各社が目指す新しい働き方を、当社のプロダクトを通して実現させたい」(杉原雅人執行役員)

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