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改正電子帳簿保存法への対応状況(2022年)/後編

改正電帳法の一部要件に対する宥恕措置に伴い、「対応を先送りした」「改めて全体最適化の検討をし始めた」という企業がある。中には「決算書類をローカルストレージに保存している」という企業もあり、帳簿データ取り扱いの理想と、現場との乖離は大きい。

» 2022年06月30日 07時00分 公開
[キーマンズネット]

 キーマンズネットは、2022年5月27日〜6月13日にわたり「改正電子帳簿保存法への対応」に関するアンケートを実施した。

 今回は、2022年1月に施行された改正電子帳簿保存法(以下、改正電帳法)への対応状況や2年間の「宥恕(ゆうじょ)措置」による現場の変化などを調査した。システム化による対応を進める回答が大勢を占める一方で、システム未導入のままデータを扱うことによる「危うさ」が見える回答もあった。

10社に1社が「決算書類をローカルストレージに保存」している?

 前改正電帳法は「紙をスキャンしてデータで保存すること」や「電子取引情報を電子データのまま保存すること」に関する要件を明記したものだが、データを扱うツールはさまざまだ。例えば、簡単に持ち運べる小型のUSB接続ストレージに保存しても「データ保存できている」ことになってしまう。

 そこで今回は「各帳票類をどのようなツールで扱っているか」を聞いた。決算や国税に係る書類がPCのローカルストレージに保存されていたり、メールでやりとりされていたりする状況は「紙よりもセキュア」と言えるだろうか。

 まず、データ化した帳票類を取り扱う中で、最もシステム化が進んでいたのは「自社が発行する取引関連書類(見積書や契約書など)」で、27.2%が専用システム、23.4%がオンプレミスのファイルサーバ、16.1%がクラウドストレージで扱っていた。自社発行の帳票はワークフローを社内完結させられるため、効率的な電子化が進みやすい傾向にあるようだ。一方で「電子化していない」(20.3%)と回答した割合も比較的高く、社外取引の電子化が難しい様子が見える。

自社が発行する取引関連書類(見積書や契約書など)

 次に電子化が進んでいたのは「EDIや電子契約SaaS、メールなどで取引したデータ」で、やはり専用システム(22.6%)やオンプレミスのファイルサーバ(24.5%)を使っている割合が高かった。ただしやり取りに電子メールやSaaSを使うため、どうしてもメールボックスやダウンロードフォルダといったローカル環境にデータが残る様子も見える。

EDIや電子契約SaaS、メールなどで取引したデータ

 「取引先から受領した取引関連書類」は、その他の帳票と比べると「電子化していない」と回答した割合(23.4%)が高い。取引先が電子化しない場合、自社側の電子化も遅れがちになる。先述した「自社が発行する取引関連書類(契約書や契約書など)」も同様の傾向があり、社外とのやりとりを刷新するのに苦労している様子だ。

取引先から受領した取引関連書類

 どのようなツールで扱っているか「分からない」という回答が多かったのは「決算関連書類(賃借対照表や損益計算書など)」や「国税関係帳簿(仕訳帳や総勘定元帳など)」だった。これらは取り扱う部署が限られるため専門部署の従業員以外が触れる機会はあまりない。一方で「5.7%が決算関連書類を電子メールで取り扱い、10.7%がPCのローカルストレージに保存している」「3.8%が国税関係帳簿を電子メールで取り扱い、10%がPCのローカルストレージに保存している」ことも分かった。

決算関連書類(賃借対照表や損益計算書など)

国税関係帳簿(仕訳帳や総勘定元帳など)

「システム化で対応したい」が大勢を占めるもシステム化「した」はそのうちの半数

 回答者の企業が改正電帳法へどのように対応しているかを聞いたところ「システム化して対応済み」と回答した企業は20.3%にとどまった。今後「システム導入で対応する予定」(23.0%)、「自社開発のシステムで対応予定」(2.3%)を合わせると、45.6%と半数近くがシステムの導入や開発、改修で対応するようだ。

 また「ワークフローの見直しで対応予定」(16.1%)と合わせると、41.1%が「何らかの対応をする予定だが、まだできていない」状況にある。

 「対応予定なし」「分からない」という回答は合計38.3%あったが、これらの中でも対応が済んでいる、あるいは進んでいる企業もあるだろう。主な担当部署に所属していない従業員が「どこかで誰かが対応しているだろう」と思うのは当然のことで、担当部署にとっては社内周知の課題とも言える。

改正電帳法への対応状況

宥恕措置を「先延ばし」と見るか「全体最適化のチャンス」と見るか

 電子取引データの保存義務化に対応できない企業が多いことから、政府は2023年12月31日まで宥恕措置を取った。企業側は「やむを得ない事情のため対応できない」ことを申請して所轄の税務署長に承認を受ける必要があるが「無条件で対応期限が延びた」という誤った認識がされている例がある。

 宥恕措置によって対応状況が変化したかを聞いたところ、14.9%が「変化がある」と回答した。

宥恕措置による対応状況の変化有無

 対応に変化があったという回答からは「申請済みだったタイムスタンプの導入を取り消した」「対応の優先度が下がった」という声があった。ただし「部分的な対応でしのぐ予定を見直し、将来の方向性を検討する時間を持てた」や「さらなる改正や緩和などが出る可能性があるため、検討していたシステムの導入を見送った」など、より先を見据えた検討期間に充てているケースもある。宥恕期間をどのように生かすかは、企業によって温度感があるようだ。

 今後、企業が見過ごせないのは2023年10月に開始する「インボイス制度」(適格請求書等保存方式)だろう。「適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号」「取引年月日」など6つの記載要件を満たした適格請求書(インボイス)の発行認定を税務署から受けてインボイス発行事業者とならなければ、仕入額控除ができなくなるものだ。このインボイス発行事業者は「電子取引における電子保存義務」を満たす必要がある。これらの関係分野の動向も視野に入れつつ、帳票電子化による生産性の向上を目指せるような環境の構築を各社が進めている。

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