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4カ月で1万TB超をAWS移行、戦中のウクライナが進めるデータ保全

» 2022年06月13日 15時03分 公開
[ITmedia]

 ウクライナ政府が、国家の活動継続に向け、各省庁や大学、銀行などが保有するデータのクラウド移行を進めている。同政府はロシアの攻撃が始まった2月24日(現地時間、以下同)から米AWSと協力。6月10日までに27省庁、18大学などのデータ計10PB(1万TB)以上をオンプレミスサーバからAWSに移行済みで、今後も増える見通しという。

 AWS社が6月10日に公開したブログによれば、ウクライナではこれまで、政府や一部民間企業のデータは、国内に置いたオンプレミスのサーバに保存するよう法律で定めていた。しかし、ロシアの攻撃が始める1週間ほど前に法律を改正。国家のデータ保全に向け、クラウド移行を可能にしたという。

 ただ、法改正が済んだとしても、肝心の保存先が決まらなくては意味がない。そこでウクライナ政府は、民間に対する支援を要請。AWSが応じた。

 AWS社は、データ移行支援サービス「AWS Snowball」の提供を決定。これは専用のストレージデバイスを郵送し、現地でデータを移してもらった後、デバイスを返送してもらい、AWSサーバにアップロードするサービスだ。AWSは2月27日までに、ストレージデバイスをウクライナに届けた。

photo AWS Snowballの概要(AWS公式サイトから引用)

 そこから約4カ月間、AWS社の担当者はウクライナの技術者と協力しながら、データの移行作業を進めているという。省庁や大学のデータだけでなく、数十万の子どもに遠隔で教育を提供するサービスの情報や、61の政府機関のデータも戦火の中で移行した。

 ウクライナの民間企業数十社も移行の対象になった。例えばウクライナ国民の4割にサービスを提供するという民間銀行「PrivatBank」は、3500台のサーバに保存していた270個のアプリケーションと4PBの顧客情報を、45日で全てクラウドに移した。PrivatBankは現在、以前と同じ状態ではないものの、銀行としてのサービスをオンラインで提供中という。

 AWS社によれば、クラウドを活用して保全したデータは、国外に避難した国民の生活支援や、終戦後の再建に役立つという。例えば学位や大学のカリキュラムに関するデータは、ポーランドやモルドバに避難した学生が、別の教育を受けたり、求職したりするとき、自身の学歴を証明するのに利用できる。

 不動産の登記情報は、国民が国外からリモートでアクセス可能にした。これにより、誰がどの土地を持っているかを記録・証明でき、都市の再構築に役立てられる見込みという。

 「(AWSの活用により)あらゆる物理的な破壊に関係なく、ウクライナ政府は市民を支援できる。クラウドに移動されたデータは全て、終戦後にウクライナ政府や市民が望む再生と再建に利用できる」(AWS社)

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