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「iPhoneにサイドローディングさせろ」を国が言うのは妥当か小寺信良のIT大作戦(1/2 ページ)

» 2022年05月24日 07時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

 内閣官房デジタル市場競争本部事務局は4月26日、「モバイル・エコシステムに関する競争評価 中間報告」に対するパブリックコメントを開始した。資料はここからダウンロードできる。

 280ページにも及ぶ労作で、スマートフォンのエコシステムについて詳細な分析を行なっており、これに関わる事業をやっている方にとっては参考になる部分も多いだろう。

 ご承知の通り、スマートフォンのOSはAppleのiOSとGoogleのAndroidに2分されている。一時期MicrosoftもWindows Phoneで再参入した時期もあったが、2019年に「Windows 10 Mobile」のサポート終了を以て撤退。以降はiOSとAndroidの寡占状態が続いている。

 もともと内閣官房デジタル市場競争本部事務局が、市場競争を加速し、最終的に消費者の利に資する目的の組織であることから、中間報告はこの寡占状態による市場競争の減速が問題であるという論調だが、一方でそれの解決策が妥当かどうか、開発サイドやセキュリティの専門家、あるいは消費者レベルなどさまざまなレイヤーで考える必要がある。そのためのパブリックコメントというわけだ。

 中間報告は、前段の64ページまでが総論、それ以降は各論となっている。問題点は41ページからの「モバイル・エコシステムにおける各レイヤーに関する評価及び対応の方向性」にまとめられているので、すでにある程度の知識のある人はここから読んでいって、前提が知りたければ上に戻る、みたいな読み方がいいだろう。

 モバイル・エコシステムに対する提言は、「モバイルOS」、「アプリストア」「ブラウザ」「検索サービス」4つのレイヤーに分けられている。64ページ以降の各論は、それぞれを深掘りしたものだ。

 今回はモバイルOSとアプリストアに絞って、この中間報告の中で示されている施策が妥当なのか、消費者の立場で検討してみたい。

OSレイヤーでの施策

 モバイルOSの寡占状態は、それ以下の3レイヤーの寡占状態の基盤となるものだが、報告書にも指摘があるように、短中期的には第3者の登場は望めない。近年では米国から「国家保障上の脅威」に指定されたHUAWEIが独自のHarmonyOSを展開したが、両者に対抗できるほどの普及は見せていない。内容的にもAndroid用のAPKファイルをインストールして使用できるなど、実質的にはAndroidのエコシステムに依存している。

 われわれに身近なところでは、AmazonのFireOSもある。独自のアプリストアも展開するが、実質的にはこれもAndroidベースであり、WebサイトからAPKファイルをインストールすればGoogle Playが使えるようになり、Androidアプリが動かせる。Amazon提供のアプリだけでことが済む人もいるだろうが、Androidタブレットのように使いたいという消費者のニーズがある限り、Androidのエコシステム依存はなくならないことになる。

 このOSレイヤーでの競争圧力を高める施策として、「OSへの依存度が少ないWebサービスの発展の確保」が挙げられている。

photo 報告書43ページの該当箇所(マーカーは筆者)

 すでに多くのサービスはクラウド上にあり、さまざまな方法でアクセスできるが、スマートフォンの良さは、「クラウドの機能をアプリという格好で見せている」ことである。つまり動いているのはクラウドだが、その窓がアプリの格好をしているという方向に進みつつある。要は窓口としてのアプリがあればいいことになるが、上記2つの後発OSの例で見たように、消費者の選択は、ブラウザを利用するより、すでに稼働しているエコシステムに乗っかった方が早いという判断になっている。

 また昨今では、Windows 11でAndroidアプリが、macOSでもiOS用アプリを動かせるようになりつつある。まだ動作できるアプリは限定的だが、こうした動きは、将来的にはOSが溶けて見えなくなる方向を示しており、特定OS依存を下げるという方向性とは矛盾しないだろう。

photo macOS向けApp StoreではiPhone用アプリも一部インストールできる

 またOSが大幅にアップデートする場合、「情報開示や周知期間・方法が不十分」という懸念が挙げられている。新OSのリリースに間に合うのは純正アプリだけ、みたいなのは不公平だろうというわけだ。

 消費者側も、新OSになったとたん普段使っているアプリが全く動作しないのは困るが、新OSでの機能がまだ使えない程度なら許容できる。一方でビジネスチャンスの喪失にもつながるような大幅なアップデートでは、周知期間を長くして欲しいというリクエストがあるのも理解できる。ただセキュリティ関連のアップデートに関しては、消費者としてはなるべく早くOSのアップデートは欲しいところだ。

 ただOS事業者がアプリも開発している場合、いち早く新OSの情報が得られるのは不公平として、OS開発部門とアプリ開発部門の間で一定期間情報を遮断する(サードパーティと同じタイミングで情報公開する)ことを義務付ける法律を導入するという施策は、そもそも実効性が担保できないように思える。

photo 報告書76ページの該当箇所(マーカーは筆者)

 消費者としては、新OS下でなるべく早期に安定したアプリが提供されることを望んでおり、いわゆる「純正アプリ」ならそれが担保できるというのが1つの安心材料になっている点は、指摘しておきたい。

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