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Engadget日本版はなぜ終わったのか、最後の編集長・矢崎飛鳥氏に聞く(第2回) 終わりは突然やってきた(1/4 ページ)

» 2022年05月23日 11時04分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

 Engadget日本版とTechCrunch Japanはなぜ閉じることになったのか。Engadget日本版最後の編集長だった、矢崎飛鳥氏との対談の2回目をお送りする。長年の友人同士の対談なので、多少言葉づかいが荒いところがある点は、ご容赦いただきたい。

 本記事はもともと、筆者(西田)と小寺信良氏が共同運営するメールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」および、そのnoteマガジン版「小寺・西田のコラムビュッフェ」に、4月4日の週から5月9日の週にかけて掲載されたもので、本記事はその短縮版の2回目となる。

 2回目はついに、Engadget日本版が終了することになった日の話から、どのような経緯で「終了」という流れに至ったかが語られる。

Engadget日本版、終了告知の裏側

西田 そろそろ核心に入っていこうと思うんですけど。

 なぜ、いきなりEngadgetの日本版が終わることになったのか。

矢崎 2月の15日(サイトクローズ発表の日)に、大本営(Boundless、米Yahoo!本社)から発表があったじゃないですか。その発表を私達が知ったのは、同じ日なんです。

photo Boundlessによる終了のお知らせ

 その15日の午前中に言われたんですよ。

 本当に楽観的だった――というか、想像してなかったんですね。

 前日の深夜ぐらい、夜遅い時間に社長から、Engadget、TechCrunchの編集者全員に、翌日の朝、午前中に1on1のコールが入ったんです。

 私は編集長なので、たまにそういう緊急の連絡は入るんですけど、スタッフの人にそういうコールが社長から直接入る、ということはないのでね。しかも夜に。

西田 そうでしょうね。

矢崎 ちょうどタイミング的に、人事査定の時期だったので、なにかサーベイ(調査)か何かかな、と思って。

 みんなからメッセが来て、「なんなんですか、急に社長からコールが入ったんですけど」というから、「サーベイか何かじゃない?」とか、すごく呑気なことを返して。

西田 ははは。

矢崎 そんな感じで返してたら、翌朝。

 私がいちばん最初だったんだけれども、「日本に関しては、メディア事業を閉じます」と。

 ライセンスは――これは後で詳しく話したほうがいいと思うんですけど、「ライセンス譲渡はありません」。「メディアのスタッフ全員、ポジションクローズです」という話があって。

 で、「これは14時に発表されるけども、それまでは社内、社外、極秘です」という話になって。

 「社内で極秘」と言われちゃったらもう手も足も出ないから、とりあえず全員の1 on 1が終わるまで待ってたんですよ。

 すると、私のあと、みんなのミーティングが終わるたびに、メッセで「!」が届くの。

西田 はははは。言えないから「!」なんだ。

矢崎 その「!」がメッセ上に6つ揃ったところで、「さあ、どうしようか!」というオンラインミーティングをしたの。

 これが、もう発表の1時間前ぐらい。

西田 13時ぐらいか。

矢崎 で、14時に発表されて。

 業界内では騒ぎになると思ってたんだけど、想像を絶する騒ぎになりましたね。

 電話は鳴りやまない、連絡は止まらない……お誘いはばんばん来る、みたいな(苦笑)。

西田 お誘いが来るのはね、ある意味ありがたいことなんだけれども。

矢崎 そうなんですけど。

西田 やっぱりそれだけメディアとしての信頼度というのもあるし、影響力というのもあるだろうけど、「潰れるメディアじゃない」と思われてた、ってことですよね。

矢崎 実際、むしろ調子良かったので。

 アフィリエイトの売上も、ブーストをかけたら広告収入を上回るぐらいで、メディアだけやってるぶんには十分黒字。

 ついでに言うならば、Engadget日本版って、USとほぼ同じ規模なのね。PVレベルが。

西田 すごいですねえ。

矢崎 USは英語圏全体で読まれてるわけだから、相当なことでしょ。

 中国語版もあるんだけど、中国語版は日本版よりも規模が全然小さい。だから、日本版のパフォーマンスとしてはUS版と並ぶぐらい多かった。

photo Engadget中国語版は日本版より規模が小さいけれど今も残っている

 だからまさか畳むとは、中にいる人も誰も考えていなかった。

西田 それは確かに。

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