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商標登録で話題の「ゆっくり」ってそもそも何? 浸透の経緯をゆっくり振り返る

» 2022年05月17日 14時38分 公開
[吉川大貴ITmedia]

 「ゆっくり茶番劇」という文字列の商標を巡り、議論が広がっている。同人ゲームなどで知られる「東方Project」の派生作品として生まれたコンテンツにもかかわらず、無関係の第三者が商標登録したことから反発の声が続出。東方Projectの原作者であるZUNさんや、ドワンゴの栗田穣崇COOも反応するなど、話題になっている。

 Twitterでは商標登録が明らかになった5月15日以降、「茶番劇の件」「ゆっくりを返せ」などの関連ワードが連日トレンド入り。「news zero」などテレビ番組でも取り上げられた。ゆっくり茶番劇がなぜここまで注目を集めるのか。カギを握るのは、ゆっくり茶番劇で使われるキャラクター「ゆっくり」の出自だ。

きっかけは二次創作、ゆっくりが生まれた経緯

 話題になっているゆっくり茶番劇とは、東方Projectなどのキャラクターなどをデフォルメし、頭だけにしたキャラクター「ゆっくり」に合成音声を当て、会話劇のようにしたコンテンツだ。YouTubeやニコニコ動画を中心に、さまざまな動画が投稿されている。

 ゆっくりを使った動画ジャンルは他にもあり、ゲーム実況に活用したものは「ゆっくり実況」、アニメや漫画、歴史などの説明に使ったものは「ゆっくり解説」と呼ばれる。いずれもゆっくり茶番劇同様、YouTubeやニコニコ動画を中心に多数の動画が投稿されている。

photo ニコニコ動画における5月17日時点での「ゆっくり実況」の投稿数

 商標を巡る話題が大きくなる原因は、このゆっくりが生まれた経緯にある。ゆっくりはもともと、東方Projectのキャラクター「博麗霊夢」(はくれいれいむ)と「霧雨魔理沙」(きりさめまりさ)の二次創作から生まれたものだ。

photo ゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙のAA(東方ダンマクカグラ公式YouTubeチャンネルから引用)
photo ゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙のイラスト(東方ダンマクカグラ公式YouTubeチャンネルから引用)

 東方Project公認ゲームアプリ「東方ダンマクカグラ」の動画によれば、当時AA(アスキーアート)を作っていたグラフィッカーのDプ竹崎さんが、頭だけになった博麗霊夢と霧雨魔理沙が「ゆっくりしていってね!!!」と話すAAを作成。ネット掲示板で広まったころに、イラストレーターのまそさんがAAをイラスト化したことから、現在のような見た目が確立したという。

photophoto オリジナルの霧雨魔理沙と博麗霊夢(東方Project25周年記念サイトから引用)

 現在、この2キャラクターはそれぞれ「ゆっくり霊夢」「ゆっくり魔理沙」と呼ばれている。イラスト化したことで、ゆっくりはさらに話題に。東方Projectの他のキャラクターを“ゆっくり化”する二次創作、三次創作が流行した他、東方Project以外のキャラクターをゆっくり化する風潮も誕生。結果、二次創作の題材としてだけでなく、ネットミームとしても浸透した。

 ゆっくりを使った動画もその流れで生まれた。イラストのブームに伴い、ゆっくりを音声合成エンジン「AquesTalk」を使った音声合成ソフト「SofTalk」「棒読みちゃん」で喋らせる動画が流行。投稿者を顔や声を明かさず動画を作れることもあって、当時流行していた「やる夫」「やらない夫」(いずれも2ちゃんねるから生まれたキャラクター)を使った実況・解説動画に代わる形で広まった。

 当初は動画編集ソフトと音声合成ソフトを組み合わせる必要があったが、これらをまとめたフリーソフト「ゆっくりムービーメーカー」が誕生すると、声当てと動画編集が一緒にできるように。ゆっくりを使った動画もさらに広まった。

「みんなのもの」意識が強い? ゆっくりが愛されるワケ

 一方で、東方ダンマクカグラの動画によれば、ゆっくりを巡る権利の所在は当初不透明だったという。しかし東方Projectを手掛ける同人サークル「上海アリス幻樂団」が二次創作のガイドラインを整備したり、関係者がそれぞれの立場を表明したりした結果、少なくとも東方Projectのキャラクターをモチーフにしたゆっくりについては権利関係がクリアに。東方Projectのガイドラインを守れば、動画制作などで使えるようになったという。

東方ダンマクカグラ運営元による解説動画

 つまりゆっくりは、二次創作として生まれたことから、人気にもかかわらず権利の所在があいまいだったところ、関係者の調整によって利用のルールが整備されてきたコンテンツというわけだ。そのために愛着や「みんなのもの」意識が強い人も多く、ゆっくり茶番劇の商標を巡る話題への反感も強くなっているとみられる。人気を博した経緯から、現在に至るまで派生作品が増え続けていることも影響しているかもしれない。

 いずれにせよ、すでにゆっくり茶番劇を巡る商標の話題は大きく広がっている。動画投稿などを行うインフルエンサーなどが反応していることもあり、商標を取得した人物やZUNさん、ドワンゴなど、関係者による今後の動向に注目が集まるだろう。

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