リテール大革命

「その発想はなかったわ」 コーセーの“化粧をしないITリーダー”が、オンライン接客を開発して気付いたこと一線引かない(1/4 ページ)

» 2022年05月23日 07時00分 公開
[酒井真弓ITmedia]

 コロナ禍は化粧品業界に大きな試練をもたらした。大手のコーセーも例外ではなく、2020年4月〜12月の売上高は前年同期比18%減、営業利益は70%減と減収減益。特にインバウンドの売上高は、前年同期から140億円近く減少し、16億円にまで落ち込んだ。

 長引くコロナ禍の中、顧客にオンラインでもリアルと変わらない購買体験を提供することが急務だった。

 そんな中、21年8月にコーセーは、オンラインでメークやスキンケアなどのカウンセリングを行う「WEB-BC SYSTEM」(ウェブビーシーシステム)を発表。同年9月から高付加価値ブランド「コスメデコルテ」で「DECORTE Personal Beauty Concierge」としてサービスの提供を始めた。

「WEB-BC SYSTEM」で接客をする様子

 これまで店頭で接客やメークやスキンケアのアドバイスを行ってきたビューティーコンサルタント(BC・美容部員)が、オンライン会議の要領で、メークや肌の悩みに対し、カウンセリングを行うものだ。

システムをゼロから作った理由

 既存のオンライン会議システムを使ったカウンセリングでは、カメラやアプリケーション上の制約によって化粧品の発色や質感が伝わりにくく、予約からカウンセリング、ECへのスムーズな遷移が難しかった。リアル接客と比べ、顧客満足度の点で課題があったのだ。

 プロジェクト責任者の進藤広輔さんは、「ビデオ通話も予約機能もコーセーの手作りです」と説明する。

 AT&T、ローソン、AWSと“IT畑”を渡り歩き、20年にコーセーに入社した進藤さん。化粧品の魅力が伝わるシステムを作るこのプロジェクトを手掛けるにあたって、大きな弱点があった。それは、自身にメークをした経験が全くないことだ。プロジェクトでは「その発想はなかったわ」と思うことの連続だった。

 1度目の緊急事態宣言明け早々、20年6月の着想からサービスの骨格ができるまで約1年。そこから顧客とBC、双方にとって満足のいくサービスとして成立させるまで約3カ月を要したというこのシステムの開発。対面での接客にこそ価値があると思われてきた化粧品販売をオンライン化するにあたり、進藤さんは、多くの気付きを得たという。話を聞いた。

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