マーケティング・シンカ論

急成長サブスク企業、カスタマーサクセス職採用を断念した3つの”誤算” 応募は180人もいたのに、なぜ?全社カスタマーサクセス体制を採用(1/3 ページ)

» 2022年05月12日 08時46分 公開
[熊谷紗希ITmedia]

 コロナ禍で市場が大きく拡大した業界の一つに「サブスクリプション業界」が挙げられるだろう。矢野経済研究所が2021年4月に発表した調査によると、20年度のサブスク事業の国内市場規模は、前年度比28.3%増の8759億6000万円だった。

 21年度は同13.8%増の9965億円との予測が出されていた。コロナ禍でさまざまな行動が制限されたことをきっかけに、在宅時間の充実などを目的にサブスクサービスに加入する人が増加したことが背景にある。

 「当時は”おやつのサブスク”というだけで伸びました」――。そう話すのはおやつの定期便サービス「snaq.me(スナックミー)」を展開するスナックミー(東京都中央区)の服部慎太郎社長だ。

おやつの定期便サービスを展開するスナックミー 服部慎太郎社長

 こだわりのおやつ8品を数週間に1回届けるサービスで、在宅時間の充実を目的にコロナ禍で登録者数が急激に増加。20年の新規登録者数は19年の約3倍に上った。コロナ以前は、「食に関心がある」「子どもにこだわったおやつを食べさせたい」という顧客が多かったが、「おやつのサブスクをとりあえず試してみたい」というライト層がどっと押し寄せた。

 「新規顧客が増えてバンザイ!」となりそうだが、困ったことが起こった。今まではユーザーインタビューなどを通し、既存顧客が感じているサービスの魅力や、サービス価値の解像度が高かった。しかし、ライト層の流入により、解像度が落ちてしまった。つまり、従来通りのコミュニケーションを取っているだけでは、新規顧客の継続利用が見込めない可能性が出てきたのだ。スナックミーの価値を理解してもらい、ファンになってもらうためのコミュニケーション設計が急務となった。

 そこで同社は、20年9月に「カスタマーサクセス職」の募集を開始。1年間にわたり、採用活動に力を入れたものの、1人も採用できなかった。応募者数は採用サイト上で確認できるだけで180人に上る。中にはSaaSサービスのカスタマーサクセス職経験者などもいたというが、なぜ採用につながらなかったのだろうか。

20年9月にカスタマーサクセス職の募集を始めた(画像:Wantedly上のスナックミーのページより)

 その理由について服部氏は「toBとtoCサービスにおけるカスタマーサクセス職の役割の違い」を指摘する。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.