その場しのぎが相次ぐ東芝が発した断末魔 「再編案求む!」の衝撃売却・消滅も現実味を帯びてきた?(1/3 ページ)

» 2022年05月12日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]

 事業分割案が臨時株主総会で否決され先行き透明感が増した東芝ですが、今度は「株式非公開化を含めた再編の提案を募集する」という驚きの発表をしました。これは明らかにアクティビスト(物言う株主)たちを意識し、6月の定例株主総会に向けて「透明性の高い開かれた経営」をイメージして対策を講じたものと思われますが、自社の基本戦略を公募するのはいかなる了見なのでしょうか。株主総会対策でアクティビストへの歩み寄りの印象付けを狙う目くらましのように思え、「また出たか、東芝のその場しのぎ策」と筆者は感じました。

 というのもここ数年の東芝迷走は、問題発生時にその都度小手先で策を弄(ろう)し続けてきた社風に依るところが大きい、と思うからです。東芝の失態は2015年の不正会計発覚に端を発していますが、この不正会計自体からさかのぼること7年、トップ主導の小手先で数字をごまかす「チャレンジ」の名の下、多岐部門にわたり総額2200億円を超える巨額の粉飾が行われていたのです。決算悪化による投資家からの批判や責任追及という目の前の難局を逃れる、「その場しのぎ」のコンプライアンス違反に代々トップが手を染めてきたわけです。

 不正発覚後にもさらなる問題が、不正会計の調査体制にありました。中立な立場での調査目的で組成されたはずの第三者委員会が、財務アドバイザリー契約を結んでいたデロイトトーマツの関係者をメンバーに入れ、名ばかりの中立であったという点が大いに禍根を残すことになります。調査範囲を国内事業に絞り込むことで、既に苦境に陥っていた米原発子会社ウエスチングハウス(WH)社を調査対象から外し、ここでも膿を出し切ったフリでさらなる目先優先のその場しのぎで逃げ切りを図ろうとしたことが分かっています。

 同社のその場しのぎはさらに続きます。歴代社長の解任など、取りあえずの粉飾決算の後始末を済ませると、WH社の業績悪化を隠蔽(いんぺい)すべく原発工事会社のストーン・アンド・ウェブスター社を0円で買収し、ひそかに業務立て直しを図るも失敗。逆にこの買収がコストアップ要因となり、WH社は16年に約1兆円もの負債を抱えて米連邦破産法の適用を受けることになるわけです。不正会計で反省したはずの組織は結果、隠蔽体質のまま1兆円に迫る巨額赤字と5500億円の債務超過を計上し経営危機に陥ることになりました。

 この時点で全てをさらけ出し実質破綻してでもその場しのぎ体質を改めたならば、今に至る迷走は避けられたのではないかと思います。しかしそれができない根深い悪しき企業風土から決定的な愚策をとってしまったのが、翌17年決算を目前に2年連連続の債務超過回避を狙った6000億円の第三者割当増資でした。2期連続債務超過による上場廃止を避けたい、目先優先のその場しのぎ体質がここでまたもや頭をもたげたのです。しかし日本勢からは不正会計とその後発覚した巨額赤字に対する不信感が強く、この時点での増資は不可能な状況にありました。

 結果論ではありますが、東芝は生まれ変わるための最大の分岐点を、ここで見失ったといえるでしょう。

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