2020年初めに顕在化した、新型コロナウイルスによるパンデミックは、その感染力の高さもあり、人々の間に大きな不安を引き起こした。それから2年以上が経過した現在では、ある意味で「慣れ」のような空気が広がっているが(もちろん決して褒められた話ではない)、当初はパニックと呼べるほどの反応が起きたことを覚えている方も多いだろう。
その代表的な例に「パニック買い」と呼ばれる、買いだめや買い占めが起きる現象がある。このリスクに対して、AIを使ってパニック買いを抑制しようとする動きが、世界中で進んでいる。
まずパニック買いが起きた事例を振り返る。2020年2月、ネット上で「トイレットペーパーが品切れする」という誤った情報が流れ、日本各地で実際にトイレットペーパーが品薄状態になるという事態が起きた。
「マスクを生産している中国でパンデミックによる混乱が起きている」「トイレットペーパーはマスクと同じ原料で作られるためマスク増産のあおりを受ける」といったもっともらしい理由が付けられていた。もちろんこの情報はデマで、トイレットペーパーのメーカー各社でつくる日本家庭紙工業会は「トイレットペーパーの在庫は十分」と呼びかけた。
しかし消費者による買いだめの動きは収まらず、予言を自己実現してしまうかのように、小売店の店頭からトイレットペーパーが消えてしまったのである。
面白いのは、こうした現象が起きたのは日本だけではなかったという点だ。日本でトイレットペーパー騒動が起きた翌月の2020年3月、英国のBBCが「新型コロナウイルス、なぜ人はトイレットペーパーを買いだめするのか」という記事を公開している。
記事によれば、オーストラリアでも同じ状況に陥り、政府当局がトイレットペーパーの在庫は不足していないといくら強調しても、買いだめは収まらなかったという。オーストラリア国内で消費されるトイレットペーパーのほとんどが、同国で生産されているにもかかわらず、である。同記事では、シンガポールや香港でも同じ光景が見られたと報じている。
パニック買いは、過去の例を見ても、1918年に発生したインフルエンザウイルスによるパンデミック、いわゆる「スペイン風邪」において起きた記録が残っている。
また1973年のオイルショックや、2011年の東日本大震災においても確認されており、引き金になるのはパンデミックにとどまらない。拡大する原因については、漠然とした不安感や情報の錯綜(さくそう)などさまざまな理由が指摘されているが、決して珍しい心理状態ではなく、いつでも起き得る現象といえるだろう。
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