「解体ショー」となるリスクも? 東芝「事業分割」の経営的意義と懸念ソニーとの差はどこでついたか(1/3 ページ)

» 2021年11月29日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]

 東芝が事業3分割による分社化を発表し、経済界に大きな衝撃が走っています。この事業分割計画について、現時点ではまだ詳細不明な部分が多々ありますが、本稿では東芝自身の記者発表と会見で説明された内容を基に、次の3つの視点からその意義と懸念材料を検証してみたいと思います。

 3つの視点とは、(1)事業分割という企業戦略そのものの意義、(2)東芝の今回の決断に大きな影響を及ぼしたと考えられるアクティビスト(物言う株主)との関係、(3)これまでも再三問題視されてきた東芝のガバナンス強化、です。

 最初に今回のスキームを簡単に整理しておきます。同社の発表資料によれば、2023年度にグループ全体を発電、公共インフラ、ビル、ITソリューションなどを手掛ける「インフラサービス会社」、半導体、パワー半導体、HDD、製造装置などを手掛ける「デバイス会社」、そして「東芝」の名称での存続会社で主にキオクシアや東芝テックなどのグループ企業事業体の株式を保有して管理する「資産管理会社」の3社に分割。それぞれで上場。お互い株の持ち合いはせず、各社の専門性を高めかつ経営判断の迅速化を図ることで、各社が専門領域で最大限の発展を目指していくというものです。

 この前提の下で、まず「事業分割の企業戦略としての意義」を考えてみましょう。

「昭和大企業」が陥りがちなコングロマリット・ディスカウント

 企業の事業分割は一般に、スピンオフ(分離)と呼ばれています。わが国では17年の税制改正で可能になった事業再生の手法で、これまでの活用例は20年のコシダカホールディングス(東証一部)が、カラオケボックス事業(カラオケ まねきねこ)とフィットネス事業(カーブス)に分割された一例があるのみです。同社の分割効果はコロナ禍という事情もあって、現状ではまだ判断がつきにくいところですが、一般にスピンオフは分割後の単体事業に将来性が見込めるならば、大きな効果が期待できるとされています。

 多岐にわたる事業を扱っているがゆえに他事業との関係で個別の事業価値が目減りしている状態を「コングロマリット(複合企業)・ディスカウント」と呼びますが、このコングロマリット・ディスカウントを解消し各事業単体での正しい事業価値を得ていくという意味で、スピンアウトは大きな期待が持てる事業戦略であるといえるのです。具体的には、分割後の各事業が単体で評価されることで独自の資金調達が可能になり、これまで難しかった新規投資などへ投資家を引き込む効果が見込め発展可能性が高まるからです。

 前回記事(「日立と東芝、ソニーとパナ 三度のパラダイムシフトが分けた「昭和企業」の明暗」)でも取り上げたように、総合電機に代表される昭和大企業は今、その古い企業文化からの脱皮が大きな課題になっているわけなのですが、その多くが古い企業文化ゆえにコングロマリット・ディスカウントに陥ってきたという点も見逃せない事実です。

 昭和の大企業経営者は、高度成長期の長年にわたる売り上げ重視の経営思想から本当の意味で脱却することができず、長らく利益率は低くとも売り上げを拡大することで利益額を増やすような会社経営に走りがちだったのです。結果として多くの昭和大企業が多角化戦略への道をたどり、その行く先でコングロマリット・ディスカウントに陥ってしまったわけなのです。

 その意味で、今般の東芝における事業分割計画は、昭和大企業の令和時代における新たな事業展開の道筋を示す、エポックメイキングな事例になり得るといえそうです。時を同じくして米ゼネラル・エレクトリック(GE)やジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)も、スピンオフ戦略を公表しています。歴史ある大企業が多角化の果てに陥ったコングロマリット・ディスカウントからの脱却策として、相次いでスピンオフ戦略を採用しているのは決して偶然ではなく、コロナ禍におけるデジタル化の急進展が大企業経営にスピードアップを迫った結果といえるのではないでしょうか。

アクティビストとの関係は?

 続いては、本件にまつわる「東芝のアクティビストとの関係」を見てみましょう。

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