ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >

急なDXでクラウド基盤がスパゲティ化した話 リラクゼーション事業者の苦悩と打開策

» 2021年11月16日 10時00分 公開
[吉川大貴ITmedia]

 全国で600店舗以上のリラクゼーション店を運営するりらく。2018年以降、ネット予約やキャッシュレス決済、これらで集めた情報を活用するデータ分析システムを導入するなど、業務のデジタル化を進めている。

 一方、デジタル化を短期間で進めたことから、せっかく構築したシステム構成が複雑化。データベースが乱立してしまい、専門知識を持った人員でも集めた情報が正しいか判断できないなどの問題が発生した。

photo 山地健太郎さん

 「デジタル化により、経営に資するデータをデータベースから抽出できるようになるはずだった。しかし実際には1種類の情報を集めるにも複数のシステムにデータが分散しており、それぞれの関係性を網羅していないと正確なデータが抽出できない」──。

 現状の課題について、同社取締役の山地健太郎さんはこう話す。この問題を解決すべく、同社は現在、これまでAWSで運用していたデータ分析システムを日本オラクルの「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)に移行し、データベースを「Oracle MySQL Database Service」(MDS)に一本化する計画を進めているという。

 これによりデータの一元管理が可能になるだけでなく、運用コストの削減も見込めると話す山地さん。りらくはデータ分析の効率化に向け、どんな計画を進めているのか。日本オラクルのオンラインイベント「Oracle Cloud Days 2021」(11月9日〜12日)で山地さんと額田利規さん(DX本部長)が解説した。

乱立するシステムそれぞれに独自DB…… 問題山積の旧基盤

 りらくではこれまで、GCPとAWSで構成されたマルチクラウド環境でデータ分析基盤を運用していた。GCPでは施術師の報酬を計算するシステムを動かす一方、AWSでは(1)施術師約1万人の契約情報などを管理するシステム、(2)各店舗の予約や会計を管理するシステム、(3)スマートフォンアプリの会員約50万人の登録情報などを管理するシステム──を動かしていた。

photo 旧システムの構成

 このうちAWS上の3システムは、それぞれが別のデータベースを活用しており、データが集約できていなかった。そのためデータ分析のときは、各データベースのデータを一度ETL(抽出したデータを変換・加工して外部に送る処理)ツールに送ってから、データウェアハウス「Amazon Redshift」で処理していた。

 しかしこの仕組みだと各データベース間でデータが重複する場合があり、正確なデータが抽出しにくかった。それだけでなく、他にもいくつかの大きな課題があった。その一つがシステム同士のデータ連携だ。

 この構成では、複数のシステムのデータをETLツールを使ってRedshiftに送っている都合上、これまでと違う切り口でデータを分析したいときは、都度ETLツールやデータウェアハウスの設定を変更する必要があった。そのため、りらくではリアルタイム性の高いデータ分析ができていなかった。

 Salesforceなど外部ツールとのデータのやりとりが困難という課題もあった。額田さんによれば、データ分析基盤内にある情報を外部に提供することはできるものの、データの置き場所が分散しているため、外部のデータを取り込むことが困難だった。

 もう一つの課題は、システムが複雑になりすぎて拡張性に乏しくなっていたことだ。「新たな機能を追加しようとすると、影響範囲の調査や(予算の)見積もりに時間がかかる。手を入れる場所が多いので、当然予算も高くなる」と山地さん。中にはそもそもリリースできない機能もあり、経営のスピード感に悪影響を及ぼしていた。

基盤刷新でコスト半減、ただしAWSより不便な点も

 こういった課題を受け、りらくはOCIやMDSの採用を決定。これらを活用した新しいシステム構成では、これまでAWSで運用していたシステムをOCIに移行する他、ばらばらだったデータベースを「統合データベース」にまとめ、各システムと連携させる仕組みを採用した。

photo 新システムの構成

 他社IaaSやクラウドデータベースではなく日本オラクルのサービスを選んだのは、コストなどを試算した結果、OCIやMDSであればシステム構成を整理しつつ、処理性能を落とさずに運用費を現状の半分程度まで削減できると分かったためとしている。

 AWS上のシステムのうち、施術師向けのシステムはすでにOCIへ移行済み。22年1月には店舗向けのシステムを、4月には顧客向けシステムの移行やデータベースの統合を済ませる計画だ。GCPは今後も利用し続けるため、今後はOCIとGCPのマルチクラウド構成になる見込みという。

 将来はデータウェアハウスをETLツールなしで運用できる「HeatWave」に変更することで、データ分析のスピード感を上げたり、運用コストをさらに削減したりする効果も期待すると話す額田さん。ただし、AWSに比べて不便な点も明らかになりつつあると明かす。

photo 額田利規さん

 「(リソース監視機能『Cloud Watch』がある)AWSに比べると、OCIは監視機能が少し弱い。『OCI Logging』『Logging Analytics』など、近い機能は存在するが、いずれも活用事例が少なく、導入ハードルが高い。早期の拡充を期待している」(額田さん)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.