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ビデオ編集が「未経験者にも手早く稼げる人気の職業」だって? YouTuberにも人気のビデオ編集ソフト御三家の方向性を探ってみた小寺信良のIT大作戦(1/3 ページ)

» 2021年11月08日 09時56分 公開
[小寺信良ITmedia]

 筆者の社会人デビューはテレビ番組のオンライン編集者(番組を仕上げる人)で、かなり特殊な仕事であったと思う。テレビに関する職業はいろいろご存じと思うが、編集マンという存在は最も知名度が低いのではないだろうか。少なくとも彼らの仕事風景がテレビに映し出されることはほとんどない。

 だが昨今は、フリーランスでビデオ編集を請け負う人も相当出てきている。YouTuber需要なのだろうか、未経験者にも手早く稼げる職業として注目されているというから、びっくりである。

 10月19日にAppleの新型MacBook Proが発表されたが、それに合わせるかように編集ソフトのアップデートが相次いでいる。メジャーなソフトのアップデートがこんなにタイミングが合致するのも珍しいので、今回はApple「Final Cut Pro」、Adobe「Premiere Pro」、Blackmagic Design「DaVinci Resolve(Studio)」の3つのアップデート内容から、それぞれが抱える市場やニーズ、方向性などについて考察してみたい。

シネマティックモードに対応した「Final Cut Pro」

 旧来のFinal Cut Pro 7からFinal Cut Pro Xへリニューアルされたのがいつだったかと調べたら、なんと2011年であった。末尾がメジャーアップデートの数字だとすれば、もう10年もメジャーアップデートがないということになる。数カ月に1回のペースで細かいアップデートは続けられているが、2020年のM1対応バージョンである10.5ではアイコンも変わり、名称から「X」が取れて「Final Cut Pro」となったという程度の進化である。

 新MacBook Pro発表のタイミングでアップデートされたのが、バージョン10.6だ。「M1 Pro」と「M1 Max」および最新OSである「Monterey」で最大のパフォーマンスが発揮できる、Apple純正ソフトウェアという立ち位置となる。

 価格は3万6800円(以下、価格はいずれも税込)で、App Storeからの購入となる。ただし高度な特殊効果をやりたい場合は、「Motion」という別ソフト(6100円)が必要になる。またバッチエンコードなどを行う場合は、別途「Compresor」というソフト(6100円)が必要になる。

 9月15日に発表されたiPhone 13のProシリーズでは、動画で被写界深度およびフォーカスポイントを自由に設定できる「シネマティックモード」を搭載した。このモードで撮影した動画は、あとからでもフォーカス位置を変更できる。ただこの操作ができるものが当初はiPhoneの「写真」と「iMovie」しか発表されておらず、本格的な編集ソフトでの対応が待たれていた。

 それを実現したのが今回のFinal Cut Proのアップデート、 ということになる。ただしシネマティックモードを扱うには、新OS「Monterey」が必要になるため、実際に一般ユーザーが扱えるようになったのは10月26日以降となった。

 フォーカスポイントの設定には、いったんクリップをタイムラインに並べる必要があるが、プレビュー画面上をクリックすればそこにフォーカスが合うというインタフェースは、iPhone上の操作と同じである。

photo 画面上のクリックでフォーカスポイントが設定できる

 また、特定のオブジェクトを自動で追いかける「オブジェクトトラッカー」を装備した。ただこの機能は、他のプロ向けソフトではとっくに搭載されている機能であり、開発ペースとしては数年遅れで付いていっている状態なのが残念である。ただ後発なだけあって、設定は非常に簡単になっている。

photo ようやく搭載された「オブジェクトトラッカー」

 編集ソフトのシェアはなかなかデータがないのだが、日本のYouTuberが使用している編集ソフトを調査した会社があり、その結果によれば、一番よく使われていたのがFinal Cut Proだったそうである。

 1つの画面内でほとんどの作業が完結できるため、初心者やアマチュアにも覚えやすいという特徴がある。またUIも操作法もiMovieに近いため、iMovieからのアップグレード先として選ばれている側面があるのかもしれない。

 Apple ProResの扱いがこなれており、フィールドレコーダーで記録するような映像制作では使いやすいという面もある。言うまでもないが、macOS上でしか動かないので、ハードウェアはMac限定ということになる。そして今回、「シネマティックモード」にも対応したことで、Apple製品や技術で固める限りは最適、というポジションだ。

 小規模なプロダクションや個人クリエイターには使いやすいソフトといえる一方で、他社がAIやニューラルエンジンを使ってこれまでにない機能を実現しようとしているのに比べると、進化の遅さが気になるところだ。Logic Proと並んでApple純正の数少ないプロ向けクリエイティブソフトだが、いつまで開発やサポートを続けてくれるのか、心配なところである。

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