#SHIFT

“反ワクチン”600人解雇の波紋 「違い」を「分断」にしないためには単純な図式化の危険性(1/4 ページ)

» 2021年10月27日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 米国のバイデン大統領は、ワクチン接種について「自由や個人の選択の問題ではない」と発言し、接種の義務化に向けて積極的な姿勢を示していると報じられています。

 既に、米国では社員にワクチン接種を義務付けている会社があり、厳格に適用している事例も出ています。そうした中、時事通信は9月30日に「米ユナイテッド航空、600人解雇へ コロナワクチン接種拒否で」と報じました。

 大統領がワクチン接種義務化に積極的だとはいえ、記事の中で、ユナイテッド航空CEOの談話として「非常に難しい決断だった」と伝えられているように、会社としてはとても悩ましい判断なのだと思います。しかし、一度ワクチン接種の義務化を決定した以上、ルールはルールとして守る必要があります。

画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ

 一方、日本ではワクチン接種について予防接種法上の努力義務となっています。厚生労働省の「新型コロナワクチンQ&A」には、「新型コロナワクチンの接種を望まない場合、受けなくてもよいですか」との質問に対する回答の中に、次の記述があります。

 「接種は強制ではなく、あくまでご本人の意思に基づき接種を受けていただくものです。接種を望まない方に接種を強制することはありません。また、受ける方の同意なく、接種が行われることはありません」

 つまり、ワクチン接種はあくまで各自の判断に委ねられているということです。首相官邸の発表によると、新型コロナワクチンの1回以上接種率は10月26日時点で76.7%。全国民のおよそ3/4に及びます。各自が判断した結果、ワクチン接種者の方が圧倒的多数派となっているようです。

 しかし、ワクチン接種に対する考え方やスタンスは人それぞれです。同様に、ワクチン接種に対する会社のスタンスもそれぞれで、中には義務化まではいかないものの、ワクチン接種を強く推奨している会社もあるようです。会社が社員にワクチン接種を推奨する理由としては、国が努力義務としていること以外にも、事業運営上の観点から大きく3つの期待があるのだと思います。

(1)社員自身の感染防止

 ワクチン接種によって社員自身の発症や重症化を抑え、社員の健康を守ることで、できる限り戦力離脱が生じないようにする。

(2)社内感染の防止

 職場内におけるワクチン接種者の比率を高め、社員間の感染が起こりにくくすることで大人数が戦力離脱するリスクを防ぎ、社員たちが安心かつ安全に働ける環境を整える。

(3)社外への感染防止

 対面接客などにおいてワクチン接種済みの社員が顧客対応することで、顧客への感染を防ぎ、顧客が自社と安心かつ安全に接点を持つことができる環境を整える。

 これらは、会社として事業運営していく上で必要な観点だと思います。しかし、ワクチン接種の効果については不確定な部分も多く、どうしても意見が分かれる余地が残ります。それが、ワクチン接種を巡る会社としての判断の難しさや悩ましさにつながっていると感じます。

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.