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社員に「自己犠牲による忠誠」を強いる時代の終焉 「5%」がもたらす変化とは進む「脱・都心」(1/4 ページ)

» 2021年09月28日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 働き方改革関連法が成立したのは、2018年6月のことです。労働基準法をはじめとする8つの法律が改正され、翌19年4月から順次施行されていきました。中でも会社が優先して対応し、多くの働き手に影響を与えることになったのが、残業時間の上限規制や年5日の年次有給休暇取得義務化など、労働時間法制の見直しです。

 労働時間法制の見直しについて、厚生労働省のパンフレットには「働き過ぎを防ぐことで、働く方々の健康を守り、多様な『ワーク・ライフ・バランス』を実現できるようにします」と記されています。それは裏返すと、これまで働き手は健康を損なうほど長時間労働を強いられたり、仕事に追われてワークライフバランスを実現することができていなかったりしたということです。

 もちろん、長時間労働をいとわず、時間を忘れてしまうほど仕事に没頭し、昼夜を問わず働き続けたような経験がある人もいると思います。あるいは、仕事そのものが趣味という方もいるかもしれません。しかしたいていの働き手は健康を損なうほど働くことを望まず、できることならプライベートのさまざまな事情と折り合いをつけて、ワークライフバランスを実現させたいと考えているはずです。

 そうした希望をこれまで諦めざるを得なかった背景には、雇う者と雇われる者との間にある、圧倒的な力の差が少なからず影響しています。弱い立場である働き手は、「健康的にほどよく働く」ことや「ワークライフバランス」といった本来の希望があったとしてもそれを犠牲にし、企業の求めに応じて健康を損なうほど働いたり、仕事一辺倒の生活を受け入れざるを得なかったりしました。働き手個人の希望は「ワガママ」と受け取られてしまい、長時間労働や意に沿わない転勤などを求められると、犠牲的精神で自らの希望を押し込め、二つ返事で引き受ける忠誠心が求められてきたのです。

 そのように本来の希望を諦め、自己犠牲による忠誠を求められてしまう窮屈さには「欲しがりません勝つまでは」などの標語が用いられた戦時中に通じる精神さえ感じてしまいます。

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