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漫画のカラー化、AIが肩代わり 精度100%ではなくても有用なワケ

» 2021年09月22日 08時00分 公開
[荒岡瑛一郎ITmedia]
古賀和樹さん(ピクシブ新規事業部マネージャー)

 「ワンピース」や「鬼滅の刃」など、世界中でブームを起こしている日本の漫画。しかし、翻訳されたからといって必ずしも全ての漫画が海外でヒットするわけではない。当然コンテンツ自体の面白さもあるが、もう一つ、海外展開には課題があるという。ピクシブの古賀和樹さん(新規事業部マネージャー)は「海外ではカラー漫画が主流になりつつある。中国では漫画がカラーでないと未完成のように感じられて読まれないこともある」と指摘する。

 だが、白黒漫画のカラー化は漫画家にとって必ずしも「やりたい作業」とは言い難い。白黒漫画をデジタルで着色するには、色やパーツごとに範囲選択をした後、レイヤー分け、下塗り、仕上げ塗りといった作業工程が必要になり、時間や手間がかかるからだ。

 この「やりたくない着色作業」を肩代わりするのが、ピクシブとAIベンチャーのPreferred Networksが作った自動着色AI「Petalica Paint for Manga」だ。すでに5月末から法人向けに試験提供も始めている。

 操作はシンプルで、コマ内で着色したいキャラクターを範囲選択し、実行ボタンを押すだけ。AIが事前に読み込ませた着色見本を基に自動着色してくれる。肌や髪、服などパーツごとにマスクレイヤーを自動生成してPSD形式で出力することもできる。もちろん手動で色の修正や瞳など細部の調整も可能だ。

Petalica Paint for Mangaの操作画面。右上に操作ボタンがある(原画提供・協力:タダノなつ「カップル漫画まとめ2」(https://www.pixiv.net/artworks/62074035))

 これまでカラー化で必要だった作業工程をAIで自動化することで作業時間が5割以上短縮できるという。自動着色を繰り返すことでAIの精度も向上するとしている。

Petalica Paint for Mangaで実現できること

「精度が100%でなければ意味がないわけではない」 カギは“役割分担”

 ただ、ボタンを押すだけで着色できるこのサービスも万能ではない。同サービスを試験導入した、電子書籍レンタルサイトを運営するパピレス(東京都千代田区)によると、自動着色の際に余計な部分を認識してしまう、複数のコマにまたがる絵を正しく識別できないなどの課題があるという。

米辻泰山さん(PFNエンジニア)

 こうした誤認識に当たった場合は人間が修正をする必要がある。そう聞くとAIに任せる意味がどこまであるのかと感じる人もいるかもしれないが、開発に携わったPFNのエンジニアである米辻泰山さんは「AIの着色精度が100%でなければ意味がないというわけではない」という。

 機械でできる単純な作業は自動化し、細かい修正や気合を入れたい部分の仕上げを人間がすることで労力を削減する、というのがこのAIのコンセプトというわけだ。

 複雑な作業ができる人間にも欠点はある。米辻さんは「人間は専門スキルを持つ人が引退したら、別の人が一から技術を身につける必要がある」と指摘。しかし、画像処理やAI技術が確立すれば、利用者はスキルの習得に時間をかけず、次のステップに集中できる。「これを使えば色を塗るのが苦手な人でも、自分の作品を発表できるようになる」(米辻さん)

 人とAIの役割分担が大事だという米辻さん。役割分担について、ピクシブの古賀さんは「人間が楽しいと思う作業は、AIには難しい」とも話す。例えば、ストーリーの考案や原稿の執筆といったクリエイティブな作業だ。昨今は作詞や作曲などを手掛けるAIもあるものの、自身の創作表現を加速するという意味では、“楽しいと思う部分”を人が行い、“やりたくない作業”をAIが肩代わりするのが良い役割分担の形であるという見解だ。

 「漫画をうまくカラー化してよりたくさんの人に読んでもらう手法で市場を下支えすることがこのプロジェクトの肝。広く普及させていくべき技術だと考えているから、賛同する企業や仲間を増やしていきたい」(古賀さん)

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