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IT人材の不足という大問題を解消する方法

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IT人材の不足が深刻である。今年の「IT人材白書」も指摘しているが、セキュリティやAIなどの先進的な技術に対応できる人材が圧倒的に不足している。この傾向は今後も拡大こそすれ、収束に向かう見込みはないとも記されている。

しかし、ここでいう「IT人材」とは、あくまでITエンジニア人材のことであり、IT営業人材についてではない。残念ながら、これについての調査データは見当たらないので、あくまで推測の域は出ないが、こちらもまた、深刻な人材不足になるだろうと私は考えている。

IT営業人材について考えを述べる前に、ITエンジニア人材の不足について、掘り下げてみたい。2018年度の「IT人材白書」には、IT活用の在り方を「課題解決型」と「価値創造型」の2つに分けて調査がおこなわれている。

「課題解決型」とは、「業務の効率化やコスト削減」が主な目的のIT活用だ。つまり、システム開発を請け負うIT企業は、実現すべきシステムが予め決められており、確実にQCDを達成すべく、作業分担を細分化し、PMが統率して計画通りシステムを開発するウオーターフォール型開発が主流となっている。

一方、「価値創造型」とは、「ビジネスを創出し、新しい仕事や価値を次々に生み出していくこと」を目的としたIT活用だ。こちらは、どのようなシステムを作ればいいのかが予め分からない。だから、ビジネスの成果に貢献できる最適なシステムを、お客様の業務の現場の方たちと試行錯誤を繰り返しながら、徐々に完成させてゆくしか手段はない。そのためには、臨機応変に対応するために、誰かの管理統率をうけるのではなく、自らが判断し行動できる自律したエンジニア・チームによるアジャイル型開発が主流となる。

白書では、「課題解決型」と「価値創造型」共に、人材不足を指摘しているが、後者の需要が、前者を上回って増加しているとも指摘している。

ここからは、私の考えではあるが、そうであれば、「課題解決型」人材を「価値創造型」人材に転換すれば、人材不足をある程度吸収できるはずだが、これが思うように進んでいないのが現実だろう。

その理由は、IT企業の多くが前者のやり方で経営や組織の仕組みを動かしており、今のところ、それで収益が上がっているので、余計なリスクを冒したくないというブレーキがかかっているからだろう。加えて、「課題解決型」を主な業務としているIT企業の利益率は総じて低い傾向にあるため、新しいスキルへの転換を進めるために一時的にでも稼働率を下げることになると人件費も確保できなくなり、経営的に厳しいという判断もあるのだろう。また、こういうIT企業のユーザー側のカウンターパートは情報システム部門であり、その多くは「課題解決型」でのIT活用業務に従事している。「価値創造型」は事業部門が主導することが多いため、そのような案件に関わりにくいという理由も考えられる。

しかし、いまさら言うまでもないことだが、少子高齢化はもはや避けることのできない現実であり、工数積算型の収益モデルでは成長できなくなるのは必然だ。加えて、「課題解決型」はコストであり、「少しでも安く」の圧力が、常にかかり続ける。この両者をかけ算すれば、売上と利益の減少は避けられない。また、クラウドや自動化のさらなる進化と普及は、工数需要を置き換えてゆく。そうなれば、ますますいまのやり方で事業を継続することは難しくなる。ならば、リスクを覚悟してでも、既存の事業で稼げるうちに事業の主軸を転換すべきであると考えるのは、合理的ではないのか。

「価値創造型」の魅力は、コストではなく事業投資であるということだ。お客様の収益の拡大に結びつくのであれば、投資規模は拡大する。この需要に応えてゆくことができれば、IT企業としても収益を拡大でき、成長も出来るだろう。ただ、「価値創造型」へ事業の主軸を移してゆくには、ひとつのハードルを越えなくてはならない。それは「圧倒的な技術力」を持たなければならないことだ。

「価値創造型」とは、この言葉が示すとおり、お客様の新しい事業価値を創造することに他ならない。これを主導するのは事業部門であり、情報システム部門ではない。また事業価値とは、お客様の競争力の源泉であり、それを実現するスキルやそのための人材は、経営資源でありコアコンピタンスとして、社内に蓄積しようとするはずだ。これを従来のやり方と同じように外注するとは考えにくく、内製で対処してゆこうとするだろう。

クレディセゾンは、97日のプレスリリースで、2024年までに1000名規模のデジタル人材を採用・育成を表明したが、まさにそんな動きを先取りする取り組みと言える。

だからといって、必要な技術力やスキルを持った人材が潤沢にあるはずはなく、外部から支援を仰ぐことになる。つまり、内製化支援という需要が、そこには存在する。「共創」とは、こういう取り組みを言うのだと思う。つまり、「共創」とは、お客様の内製化支援である。

この内製化支援を求める相手が、自分たちより技術力やスキルが不足しているようでは、仕事を頼む価値はない。つまり自分たちの先を行く、高度なスキルや技術を提供してくれなければ、支援を求める意味がない。従って、「価値創造型」に関わってゆくには、「圧倒的な技術力」を持たなくてはならない。

「圧倒的な技術力」とは、加速するビジネス・スピードに対処するための技術力である。例えば、現場のニーズにジャストインタイムでシステムを提供するためのアジャイル開発やDevOpsのスキルであり、インフラの構築や運用の負担を減らすためのクラウドやサーバーレス、リソースの負荷分散や変更への柔軟性・俊敏性を実現できるコンテナやマイクロサービスといった技術力となるだろう。いま需要のあるAIIoT、セキュリティも、こういうテクノロジーやこれを使いこなすノウハウが前提となることが多い。ITエンジニア人材が、「価値創造型」に関わってゆくには、こういう技術力を磨いてゆく必要がある。

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このような「価値創造型」案件を増やしてゆくのが、IT営業人材の役割だ。しかし、「課題解決型」のように、何かを解決したいとか、こういうシステムを作って欲しいという要望に応え、必要なリソースを手配することでは、案件獲得は難しい。それは、「何とかしなければならないが、何をすればいいのか分からない」というお客様に向きあわなければならないからだ。

「何をすればいいのか教えてもらえれば、それを解決します」といった営業スタイルでは対処できないとすれば、違うやり方を駆使するしかない。それは、分からないことを教える教師であり、病気の相談をするホーム・ドクターのような存在になることだろう。つまり、お客様の事業や経営の現実や課題を読み解き、それを洞察し、お客様の「あるべき姿」はこうあるべきだと提言し、どうすれば新たな価値を創造できるかを示す役割だ。

その「あるべき姿」が100点満点である必要はない。それよりも大切なことは、新しいテクノロジーを理解し、どのようにお客様の事業に適用すれば、お客様の事業価値を高められるかといった、新たな視点を提供することが大切になる。それをきっかけにさらに対話を重ね、「何をすればいいのか」を明らかにすれば、それが案件となる。

IT営業人材もまた、ITエンジニア人材同様に、新たな知識やスキルを磨いていかなければ、「価値創造型」案件の獲得はできない。

「価値創造型」の需要はこれから益々増えてゆく。一方で、エンジニアにとっても、営業にとっても、スキル転換は容易なことではない。結果として、人材不足に陥るというのが、私の見立てだ。人材の絶対量が足りないということではなく、スキルのミスマッチが人材不足の実態だろう。

ただ、「価値創造型」への転換が図れないのは、IT企業の経営の問題であると言い切るのは、いささか都合のいい話であるようにも思う。むしろ、エンジニアや営業の覚悟であり、そのために行動を起こすかどうかにかかっている。

先ほども述べたように、「課題解決型」はコスト削減が正義である。だとすれば、ここに従事しても労働単価を上げることは難しい。つまり、そこに関わっている限り、いまのスキルのままで、いまの仕事を続けながら、給料は上げて欲しいといっているようなもので、どだい無理な話である。自分や家族の将来のためにもっと給与を増やしたい、あるいは、時代に即した仕事にチャレンジしたいと考えるのであれば、エンジニアであれ、営業であれ、「価値創造型」に対応できるスキルを身につけるしかないのだ。

そういうスキルを磨き、会社にプレッシャーをかけて、会社の事業や経営を変えさせることを考えてみるべきではないのか。それでも動かない、あるいは変わらない会社など、とっととやめてしまえばいい。「価値創造型」スキルを身につけたIT人材は、ユーザー企業でも、IT企業でも引く手あまただ。そういう自らの自助努力もせずに、会社に不満を言うだけでは何も解決しないし、不満だからと転職しても、キャリア・アップは難しいだろう。仮に転職できても、また同じ不満を持つことになり、同じことの繰り返しになるだけだ。

IT企業の経営者もまた、この現実を直視し行動を起こす必要がある。それは、労働時間を短縮するとか、教育制度を充実させるとか、そんな表面的な施策だけでは難しい。ITは同じでも違う事業だと覚悟を決めて、事業転換をすすめるという大改革の大鉈を振るう必要がある。そのためには、事業目的を再検討すべきだ。その上で、業績評価制度や組織を変えることだ。そして、なによりも経営者自らが「価値創造型」案件を獲りに行く営業として、部下に範を示す覚悟を持つことだろう。そうしなければ、優秀な人材は、会社に見切りをつけて、さっさと転職してしまうだろう。そうなれば、いざ改革を進めようにも、改革の旗手を失い、何も出来なくなってしまう。

人材不足はもはや避けて通ることの出来ない、我が国の大きな課題である。そうであるならば、その課題を積極的に受け入れ、個人であれ、経営者であれ、自らの転換を図ってゆくしかない。

個人であれば、覚悟を決めてスキルを転換するしかない。経営者であれば、その権限を行使して、事業目標や業績評価基準、組織・体制を変えるしかない。そんなお互いの行動が、人材不足という大問題を解決するために、必要なことではないのだろうか。

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