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ITフリーランス対象の国の労災保険「特別加入制度」がスタート 通勤や仕事でのケガ、病気など補償

» 2021年09月01日 19時17分 公開
[新野淳一ITmedia]

この記事は新野淳一氏のブログ「Publickey」に掲載された「ITフリーランスを対象とした国の労災保険「特別加入制度」が今日からスタート。フリーランスでも通勤や仕事によるケガ、病気、障害、死亡など補償」(2021年9月1日掲載)を、ITmedia NEWS編集部で一部編集し、転載したものです。

 フリーランスのプログラマーやWebデザイナーなどの、いわゆるITフリーランスが通勤や仕事で被ったケガや病気、障害、死亡などに対して補償が行われる、国による労災保険の特別加入の対象拡大が今日、2021年9月1日からスタートしました。

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 労災保険とは、通勤や仕事において被るケガや病気、障害、死亡に対して、治療費などの療養費、休業する際の休業期間の給付、治療後に障害が残った場合の給付、死亡した場合の遺族への給付などを行うもので、国が管掌しています。病気やケガの際の医療費を一部負担する社会保険(健康保険)や国民健康保険などの国民皆保険制度とは別の制度です。

 労災保険は、労働者を一人でも雇用する会社には労働者災害補償保険法によって加入が義務付けられており、保険料の全額を会社が負担することになっています。つまり、会社員やアルバイト、パートなど会社に雇用されている立場である労働者は、自動的に労災保険の対象となります。

 一方で企業とは雇用関係にない個人事業主や事業主、社長や役員などは労災保険の対象ではありません。しかし業務の実態や災害の発生状況からみて労働者に準じて保護することがふさわしいと見なされる人たち、例えば一人で土木や建築などの業務に携わっているいわゆる一人親方、個人タクシーや個人配送業者、農業者のうち一定の条件を満たす特定農作業従事者や指定農作業者などに対しては、以前から一定の条件下で個人にも労災保険への加入が認められていました。

 これが労災保険の「特別加入制度」です。

 この特別加入制度は国の成長戦略においてフリーランスとして働く人の保護を行う方向性に沿って見直されており、昨年には俳優などの芸能従事者やアニメーション制作事業者などにも対象が広げられました。

 そして今年6月18日に行われた厚生労働相の諮問機関である労働政策審議会での議論などを基に、令和3年9月1日、つまり本日付で労働者災害補償保険法施行規則等の一部を改正する省令が施行されました(厚生労働省労働基準局長 通達)。

 これにより今日からプログラマーやWebデザイナーなどのITフリーランス、及びウーバーイーツの配達員などを想定した自転車を使用して貨物運送事業を行う者なども特別加入制度の対象になったのです。

対象者はコンサルタントからプログラマー、保守、Webデザイナーなど幅広い

 今回「ITフリーランス」として特別加入の対象になるのは原則として以下の業務や作業をする者と説明されています。

  • 情報処理システムの設計、開発、管理、監査、セキュリティ管理
  • 情報処理システムに関する業務の一体的な企画
  • ソフトウェアやWebページの設計、開発、管理、監査、セキュリティ管理、デザイン・ソフトウェアやWebページに関する業務の一体的な企画その他の情報処

 ここで言われている「情報処理システム」には、ネットワークやデータベース、組み込みシステムなども含みます。また「開発」にはプロジェクト管理も含みます。

 具体的な職種としては次のような例が挙げられています。コンサルタントからプログラマー、保守、Webデザイナーやディレクターまで、幅広いものとなっています。

  • ITコンサルタント
  • プロジェクトマネジャー
  • プロジェクトリーダー
  • システムエンジニア
  • プログラマー
  • サーバエンジニア
  • ネットワークエンジニア
  • データベースエンジニア
  • セキュリティエンジニア
  • 運用保守エンジニア
  • テストエンジニア
  • 社内SE
  • 製品開発/研究開発エンジニア
  • データサイエンティスト
  • アプリケーションエンジニア
  • Webデザイナー
  • Webディレクター

 保険料は個人負担。給付額の計算の基礎となる「給付基礎日額」に365を掛けた値の1000分の3(ITフリーランスの場合)が年間保険料となります。例えば、給付基礎日額を1万円とすると、365万円の1000分の3で1万950円。給付基礎日額を2万円とすると2万1900円です。

 給付基礎日額を基に、ケガや病気をした場合の療養費や休業時の給付、障害が残った際の年金額などが決められます。

 労災保険への特別加入は個人が直接申し込むのではなく、フリーランスのITエンジニアを構成員とする団体を組織し、その団体が特別加入団体として申請を行い、認められた後に、その団体員が団体を通して加入手続きを行うことになります。

 ITフリーランスの団体による申請も本日から受付が開始されるため、現時点ではまだ特別加入団体となったITフリーランスの団体はありません。

 Publickeyが取材した範囲では、今年2月に設立されたばかりの「一般社団法人ITフリーランス支援機構」が特別加入団体の申請を9月中に行うことを明らかにしています。同団体によると、おそらく10月にはITフリーランスから労災保険に関する受付が可能になるとのことです。同団体の入会金や年会費などは現在制度を設計しているとのこと。

 ほかに特別加入団体として申請を予定している団体があれば、ぜひご連絡ください。この記事に追記いたします。

 厚生労働省のWebサイトでは、下記のパンフレットもPDFで公開されていますので、興味がある方はぜひご覧ください。問い合わせ窓口などもこのパンフレットで紹介されています。

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