内定者の親に手紙、入社式に家族──企業の新卒「親対策」コロナ禍ではどう変化?「オヤカク」流行から数年(1/2 ページ)

» 2021年07月27日 11時40分 公開
[小林可奈ITmedia]

 「オヤカク」という言葉がある。新卒採用の内定者に対し、「親には当社に入社することを承諾してもらっているのか?」と確認を取ることだ。

 「就職に親が関与してくるなんて」とネガティブな声も聞こえてくるこの流れだが、2015年前後にはたびたびメディアでも取り上げられた。

 内定の理由を手紙にしたためて親に送る、自宅を訪問する、入社式に親を招待する──各社がさまざまに工夫して親へのアプローチに取り組むのは、多くの場合、親の反対による内定辞退を恐れるからだ。

photo 画像はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 Web面接の浸透やオンラインインターンシップの定着など、コロナ禍で様相が一変した新卒採用市場において、各社の親に対する取り組みは、どう変化しているのか取材した。

入社式に家族も招待 コロナ禍ではライブ配信

 オタフクソース(広島県広島市)では、「オヤカク」の流行よりもずっと前、約40年ほど前から入社式に家族を招待してきた。当初は会社の規模が小さく、入社式に限らずさまざまな行事に家族を招いていた。コロナ禍においては、代わりに家族限定でライブ配信を行っている。

 実施のメリットは何か。人事部の高田一慶氏(※1)は、「経営者や同期を知ることで安心されるとともに、家族からの支援につながること」を挙げる。

(※1)「高」は、正しくは「はしごだか」。

 「買い物でオタフク商品を見たときに、親近感がわくようになった」と、家族にも自社製品のファンになってもらえる効果もある。

 式では、新入社員が社会への旅立ちメッセージ「声の手紙」を読み上げる。入社式という社会人の節目を迎える場で、家族や役員が見守るなか、今の思いを発表するものだ。これまでお世話になった人へ感謝の気持ちを歌や特技で伝えるなど、表現方法はさまざま。家族からは、「社会でやっていく決意を聞けて良かった」と好評だという。

親への手紙を中止 その理由

 一方で、一時は取り組んでいた親へのアプローチを、中止した企業もある。不動産事業のリスト(神奈川県横浜市)では、14年ごろから両親に対し、手紙やインターン時の動画を送っていたが、現在は行っていないという。両親の名前を明記のうえ、学生の長所など、内定を出した理由を手紙にしたためていた。

 もともと、全ての学生に対してではなく、入社を希望しているが両親へうまく伝えられないと悩んでいる学生を対象に行っていた。そうした学生をサポートすることで、自分の意思で将来を決める自主性を身につけてもらうねらいがあったという。

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 内定者本人からは実際に、自分の意見を伝える、説明することに対する自信がついたという反応があった。こうした経験や自信は、入社後の顧客対応にも生かされると期待している。家族からも、「会社について知ることができ安心した」「インターン動画を通じて頑張っている姿を見れて良かった」という声が寄せられ、お礼のメールが届いたこともあったというが、なぜ取りやめたのか。

 「世の中全体でみると一概にはそう言えないかもしれませんが、当社では内定者が後輩に当社のことを紹介・推薦することも多いため、自主性の高い学生が集まるようになったと感じています」(同社広報部・市原奈津美氏)

 内定者が親を説得できないという課題を、別の要因で解消できたため、親へのアプローチは取りやめた形だ。必要性がなくなったので中止したが、これからも学生からの相談があれば親へのアプローチを検討していきたいという。

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