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経営も分かる「CFO候補」が理解しておくべき、経営の“本質”とは?伊藤レポートの「ROE8%以上」だけでは足りない(1/2 ページ)

» 2022年01月27日 11時00分 公開
[鷲巣大輔ITmedia]

連載:経営を動かすファイナンス

 財務や経理のみに限らない、ファイナンス人材の新たなキャリア候補FP&Aについて、FP&Aスペシャリストの鷲巣大輔氏が寄稿。今回は、「FP&Aの判断軸」についてです。

▼FP&Aとは?

CFOを目指したい人の登竜門? 『FP&A』とは、どんな仕事なのか


 前回の記事「CFOを目指したい人の登竜門? 「FP&A」とは、どんな仕事なのか」では、財務・経理と並ぶファイナンス人材のキャリアとしてFP&A(Financial Planning & Analysis)をご紹介しました。「攻めのファイナンス」であるFP&Aにとって最も大切なことは、経営者のビジネスパートナーとして経営判断に影響を与える良質な判断材料を提供することです。またファイナンス部門の一員として、株主債権者といった資金提供者に対して説明責任をきっちりと果たすことを常に念頭に置きつつ、経営判断に示唆を与えます。

 この役割を果たすためには、何は良くて、何は良くないのか、その判断軸をしっかりと定めることが必要になります。その「FP&Aの判断軸」とは一体どのようなものなのでしょうか。

コーポレート・ファイナンスと経営の本質

 判断軸のお話に入る前に、コーポレート・ファイナンスで大事な概念をご紹介したいと思います。下図は私がMBAのクラスにおいて「コーポレート・ファイナンスにおいて最も大切な概念図の一つ」として受講生の皆さんに紹介しているものです。経営の本質、と言っても過言ではありません。

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 経営者はこの図における中央に位置付けられ、2つのものに対峙します。

 1つは左側の「ビジネス」です。ある市場において競争優位性を発揮し、収益性を最大化するにはどうしたらいいのか。具体的には経営戦略やマーケティング、イノベーション、オペレーションといった、ビジネスにまつわる多くの意思決定はこの「左側」に関することと理解していいと思います。

 「左側」はとても大事なのですが、それだけでは経営者にとっては不十分です。右側の「資金提供者」にも向き合わなくてはなりません。企業を生命体と例えるのであれば、その生命を支える血液に該当するのがこの矢印、すなわちキャッシュフローです。この血流を早く、太く、循環させることで企業価値を大きくするのが経営者の役割です。

 「左側」だけでキャッシュが順調に回るのであれば何の問題もありませんが、そのようなケースはまれです。多くの場合、必要に応じて大型投資をしたり、大胆な事業構造の変革をしたりとなると、中期的には「左側」のキャッシュフローだけでは事業は回らなくなることがあります。

 その場合は「右側」の資金提供者に事業資金を供給してもらうことになりますが、その際に「右側」の期待リターンを満たすことを約束しないと資金調達が不可能になります。投資や融資を受けることと引き換えに、株主債権者に対して経済的リターンを還元することをコミットするわけです。これをファイナンス理論では「資本コスト」という表現をします。すなわち金利を支払う借入金のみならず、株主からの資金提供に対しても株価上昇・配当金というリターンを約束するのです。

 前回のコラムで「伊藤レポートで、日本企業はROE8%以上をコミットすべきとした」と説明しましたが、この文脈も上記の図に照らし合わせると分かりやすいかもしれません。「ROE8%以上をコミットする」というのは、「右側」に位置付けられる株主の期待リターンが年率平均8%だから、経営者は「左側」のビジネスにおいて高い収益性を上げることで、その約束を達成しよう、ということを意味します。つまり経営とは「右側」の期待リターンに対してコミットし、それを上回るリターンを「左側」で生み出すことです。経営判断においてこの考え方を徹底することが、資金提供者に対して説明責任を果たすことと同義になります。

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