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スマートスピーカーから考える、「本当に賢い」とは何か小寺信良のIT大作戦(1/2 ページ)

» 2022年01月13日 10時13分 公開
[小寺信良ITmedia]

 2021年末にBloombergが報じたところによれば、Amazon Echoユーザーのうち、15%から25%の人はデバイスを使用して2週間で使わなくなっているという。

photo Amazon Echoシリーズ

 ここをどう解釈するかが数字の面白いところで、購入者の4分の1が2週間で使わなくなった、といえばダメじゃんとなるが、逆に75%もの人が使い続けているわけで、これは結構すごい数字なのではないかという気がする。

 実際どんなデバイスでも、2週間ぐらいで今後使い続けるかどうかは決まるものだ。筆者宅には期待して買ったものの、たまにしか使わなくなった機器がゴロゴロしているのだが、多くの家庭でもだいたいそんなものじゃないだろうか。

 他の一般的な家電と比較した場合、Amazon Echoのようなスマートスピーカーは、期待値と実効値の落差が大きいように思う。

 音声コマンドによるAIとの対話でどんなことができるのか、期待は確かに大きかった。だが音声コマンドによって生活を豊かにするためには、さまざまなAlexa対応機器への買い替えが必要であり、そこには膨大なコストと設定の手間がかかる。それがなければ、トイレのライト1つ消せない。

 だがAmazon Echoは、もともとそういうエコシステムで動くものとして設計されている。つまりAmazonで対応デバイスをバンバン買ってください、そこがゴールです、というわけだ。

 それをせずにコントローラー端末であるEchoだけ取り出して便利に使えるかというと、そこには限界がある。そんなわけで多くの人は、キッチンタイマーか、天気予報を尋ねる、よくて音楽再生といったところに落ち着く。

なぜ使われなくなるのか

 スマートスピーカーが広く認知され始めたのは、それほど昔のことではない。米国では2016年ごろから広く知られるようになっていったが、日本では2018年3月末にAmazon Echoが初上陸した。筆者は2017年1月のCESで、スマートスピーカー市場の拡大を目の当たりにしたが、日本に入ってきても自分は使うだろうか、と疑問に思ったことを覚えている。日本人は、音声で命じて何かをさせるという行為に向いていない気がしたのだ。

 この理由を当時は、「使役文化」の違いだと思っていた。米国においては、小銭を払って人を動かし何かをさせるということが日常的に行われている。ホテルに行けばドアボーイやメイドにチップを払い、子供たちに庭の掃除をさせては小遣いをやり、近所の娘をベビーシッターに雇って夫婦で食事に出る。一般家庭でも多くの人は言葉で人を動かすことに慣れており、スマートスピーカーの音声コマンドは、そうした文化を色濃く反映しているのではないか、一方の日本には、そうした文化が希薄なのでは、と思ったわけだ。

 だが実際に自分でスマートスピーカーを使うようになって、少し深刻に考えすぎていたように感じている。もっと単純に、これはどれくらい面倒くさいかの差ではないのか。

 例えば部屋のライトを消すにしても、米国は家が広いのでわざわざスイッチのところまで行くのがめんどくさい→リモコンだってなんか遠くに転がっている→面倒くせえ→でも声ならどこにいても届く→音声最高! こうした流れなのではないか。

 一方日本では部屋が狭いので、壁のスイッチまで2、3歩だしリモコンは手が届く範囲に転がってるし、そもそも太るから立て歩け運動しろと言われているしで、それぐらい誰かを使わずに自分のことは自分でやれと躾けられている。音声で命じて誰かにやらせるまでもない。

 あと個人的には、スイッチをパチンパチンするのが大好きであり、スイッチはONなのにライトは消えてる矛盾に納得できない。改めてライトを付けるためにスイッチを1回OFFにしてまたONにするほうがよっぽど面倒くさい。

 一方で料理で両手が汚れているときに煮物揚げ物のアラームをセットするのは、音声に頼るしかない。タイマーぐらいしか使わないのか、といわれても、音声でタイマーがセットできるデバイスが他にないので、仕方がないのである。

 だが多分それだけでは、コストが合わないのだ。たかだかそれだけで5000〜7000円は出せない。だが、音声で天気が聴けてタイマーもセットできる時計が2000〜3000円で売られていたら、うっかり買ってしまうのではないだろうか。メルカリやヤフオクを覗けば、それぐらいでEchoの中古が数百台単位で売られている。そんなもので十分ではないのか。

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