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最新ロボットはどこまで人の代わりになる? キーワードは“親しみやすさ”? 新人記者が体験してみた

» 2021年07月13日 08時00分 公開
[荒岡瑛一郎ITmedia]

 コロナ禍が続く中、人同士の接触や対面による感染リスクを抑えるため、さまざまな場所でロボットの導入や活用が進みつつある。例えば、業務用の掃除ロボットを導入するオフィスビルもあれば、配膳ロボットを入れた飲食店もある。コンビニ商品棚の陳列に使える遠隔操作ロボットもこれから実用化されるという。

 ただ、その恩恵を実感できているかと言われれば話は別だ。最先端の技術として活用が進む一方、「ロボットがいてくれて助かったなあ」と感じる機会はそこまで多くない……という人も少なくないのではないか。在宅勤務が広がった今、そもそも外に出る機会が多くなく、どこでも見かけるほどロボット自体がまだ普及していないというのも要因にありそうだ。

 記者も実はその1人だ。私は21年4月に入社し、5月に編集部に配属されたばかりの新人なので、まだそれほど多くの取材はできていない。ましてやコロナ禍で、現地取材のセッティングは簡単ではない。編集部自体も在宅勤務体制なので、先輩記者の皆さんとはオンライン会議でこそ顔を合わせても、まだ実際に会ったこともない。

展示イベントの会場マップを表示するロボット

 とはいえIT領域の記者になった以上、できればもっとロボットの活躍やすごさを身近に感じたい。そこで記者は、デジタルコンテンツ制作を支援するCiP協議会(東京都港区)などが7月3日〜4日に開催した、企業や大学が研究を進めるロボットの展示イベント「ちょっと先のおもしろい未来」に参加し、ロボットと触れ合ってみた。実際に身近な分野で活用されるロボットの働きを見ると、これまでは気付かなかった工夫も見えてきた。

遠隔操作ロボットは“中の人”がいるから会話がユニーク

 イベントの趣旨は、インターネットやIoT機器を活用したスマートシティーの一部を体験して、最新技術やロボットに親しみを持ってもらうことという。自動掃除ロボットや案内ロボットなどを展示する他、イベントでの動作データを研究に生かす実証実験も兼ねている。

 会場で最初に目についたのが、女性型ロボット「しおりん」だ。アイドル衣装を着たマネキン頭のロボットが立っていて、目線の高さは記者とほぼ同じだったので自然と目も合うというもの。興味津々で近づいた記者に、彼女は「眼鏡をかけてカメラを持っているお兄さん!」と声をかけてきた。「え、そんなに分かるものなの?」とこの時点で驚いた。

しおりん

 その後、天気の話やイベントの混雑具合について雑談をしたが、あまりに臨機応変すぎる対応が不思議に思った記者は、つい「しおりんの中身はAI? それとも人間?」と禁断の質問をしてしまった。返ってきた答えは「しおりんは、しおりんだよ!」。禁断の質問への答えもばっちり用意しているらしい。

 しおりんを開発した機械部品メーカーのTHK(東京都港区)の担当者に話を聞くと「オペレーターが遠隔操作している」と明かした。ロボットに搭載したカメラとマイクを通して会場の様子を見ながら会話をしているという。インターネット環境があればどこでも使えるため、展示会での商品説明や企業の受け付けなどでの活用を想定しているという。

中身は人間なのだから当たり前だが、ロボットやAIにある返事までのタイムラグや独特の発音はない分、話していて楽しかった。東京のオフィスにいるスタッフが沖縄の観光地で解説する、なんてことも可能になるかもしれない。

 一方で、遠隔操作だからこそ気まずい点もあった。ロボットを通しているとはいえ、会話をしているのは人間だ。話す内容や態度も多少は慎重になる。AIとの会話であればあまり気を遣う必要はないが、人がいるからこそやりにくくなることもあると気付いた。

 別れ際、彼女に写真撮影を頼むと、「笑顔は苦手です」と言いながら腕を上げてポーズをとってくれた。案外、しおりん(の中のオペレーター)も人間に気を遣っているのかもしれない。

ポーズを取るしおりん

自力でエレベーターを呼ぶ道案内ロボット

 しおりんとの別れを惜しみながらも会場を進むと、可愛らしいロボットに出会った。記者の腰より少し低いくらいの四角いロボットで正面のディスプレイに顔が映っている。名前は「Cuboidくん」。1階のイベント会場から2階の会場に案内してくれるというので頼んでみた。

 最初に「Cuboidくん、仕事を始めるよ」と呼びかけると案内モードになる。「2階のイベント会場に連れて行って」と目的地を教えると、カメラで記者の姿を認識し、案内を始めた。声で応答するだけのAIスピーカーと違い、顔が付いていて動きもするからか、見ていてほほ笑ましさを感じる。

Cuboidくん

 ところで、2階への移動はどうするのだろう。エレベーターの方に案内されているようだが、ボタンは記者が自分で押すのかな? と考えていたら、Cuboidくんがエレベーターの前で立ち止まった。数十秒してエレベーターが到着すると、なんと扉が自動で開き、乗り込んだ後もボタン操作を一切することなく2階に到着したのだ。

 開発したソフトバンクによると、Cuboidくんがエレベーターと無線通信して操作しているという。エレベーター移動が自動でできれば、高齢者や障害のある人の移動サポートにも使えるし、自動清掃ロボットにビル丸ごと任せることもできそうだ。

エレベーターから降りるCuboidくん

 先にエレベーターを降りた記者が少し離れたところでCuboidくんを待っていると、記者を見失ったCuboidくんが停止して「こちらです、付いてきてください」と呼んでくれた。案内相手が近くにいるかどうかの確認も怠らないらしい。そして無事に2階の目的地に到着した。デパートやショッピングモールのように入り組んで目的地が分かりにくい場所で稼働してくれたら、助かる人は多いかもしれない。

 案内してもらって気になる点もあった。例えばCuboidくんは記者がカメラから外れるとすぐに動きを止めるため、認識しやすい位置を維持して歩く必要があった。案内してもらうときはCuboidくんに先導してもらう形になるため、前方を歩いている人が道を譲ってくれて、申し訳なく感じることもあった。

 とはいえ、譲ってくれた人があからさまに嫌な顔をしていたというわけではない。Cuboidくんの見た目や珍しさからか、さっと端に寄ってくれた。「人間に好かれるデザイン」というのも大切なのかもしれない。

ロボットと距離を置く大人、ペットや友達のように接する子ども

 イベント会場にはその他、ソフトバンクのヒト型ロボット「Pepper」や米Boston Dynamicsが開発した四脚ロボット「SPOT」、ロボット製造を手掛けるイーダブリューデザイン(東京都八王子市)の身体拡張ロボット「スケルトニクス」なども展示されていた。

イーダブリューデザインのスケルトニクス

 特に印象的だったのは、スタッフが操作するSPOTに「お座り!」と話しかけていた子どもの姿だ。大人が珍しさで遠くからSPOTを見ている中、子どもたちはペットと遊ぶように話しかけたり追いかけたりしていた。

SPOTに話しかける女の子

 ロボットを前にしたとき、大人は「便利な機械」と考えがちではないだろうか。しかし子どもたちはSPOTがまるでペットや友達であるかのように振る舞っていた。さまざまな技術に対して「○○ネイティブ」という表現があるが、この世代の子どもたちは「ロボットネイティブ」といえるのかもしれない。ロボットと友達のように触れ合える彼ら彼女らが青年になったとき、どんなロボットが活躍しているのか、人間とどんな関係を築いているのか、そんな未来をこれから取材していくのが楽しみだ。

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