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フリーのITエンジニアやWebデザイナーも国の労災保険へ加入可能に 9月から

» 2021年07月06日 11時26分 公開
[新野淳一ITmedia]

この記事は新野淳一氏のブログ「Publickey」に掲載された「フリーのITエンジニアやWebデザイナーも国の労災保険へ加入が可能に。業務や通勤での疾病、負傷、死亡など補償。国の労働政策審議会が了承。9月から」(2021年7月6日掲載)を、ITmedia NEWS編集部で一部編集し、転載したものです。

 会社員やアルバイト、パートなど雇用されている立場である労働者が、仕事や通勤を事由としたケガや病気になり、あるいは死亡した場合、いわゆる労災保険、正式には「労働者災害補償保険」による保険給付が行われます。

 労災保険は国が管掌しており、労働者を一人でも雇用する会社には労働者災害補償保険法によって加入が義務付けられています。

 IT業界は残念ながら長時間労働が常態化している職場が少なくありません。そしてこれに起因する過労、うつなどの精神疾患をはじめとするさまざまな労働災害が発生していることは、読者もご存じのことでしょう。

 会社員やパート、アルバイトなどであれば、こうした労働災害は労災保険によって補償されます。

 一方、企業とは雇用関係になく、準委任契約や受託契約などを結んで仕事をしているフリーランスのITエンジニアやWebデザイナーなどは、たとえ長時間労働で過労となり精神疾患になろうとも、労災保険の加入対象外です。かかる医療費や働けない期間の生活費などは全て自己負担となります。

 しかしITエンジニアをはじめ、フリーランスのように雇用関係を持たずに働く人は増加しています。そうした働き手をどうやって保護するかは大きな課題の一つでした。

フリーランスのITエンジニアなども労災保険に特別加入が認められる

 そうした中で、厚生労働省の諮問機関である労働政策審議会は6月18日にフリーランスのITエンジニアの関係団体であるITフリーランス支援機構からヒアリングを行い、同日、ITフリーランスの労災特別加入が認められることが明らかになりました(第97回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会資料)。

photo ITフリーランス支援機構による発表

 2021年9月1日に省令が改正施行される予定です。

 ヒアリングに用いられた資料では対象となる業種が「情報サービス業」となっているため、プログラマーやSEだけでなくWebデザイナーなどを含むITに関わる幅広い職種が対象になると予想されます。

 「労災特別加入」とは、基本的には企業が労働者のために加入する労災保険に、特別に個人でも加入できるようにした仕組みのこと。

 以前から労災保険に対しては、一人で土木や建築などの業務に携わっているいわゆる一人親方や、個人タクシーや個人配送業者、農業者のうち一定の条件を満たす特定農作業従事者や指定農作業者など、一定の条件下での個人にも加入が認められていました。

 最近では、俳優などの芸能従事者やアニメーション制作事業者などにも対象が広がっており、今回ITエンジニアだけでなく、ウーバーイーツの配達員も特別加入が認められています。

 これによりフリーランスのITエンジニアは個人で労災保険に加入できるようになり、加入者が不幸にも労働災害に見舞われた場合には保険給付を受けることができるようになります。

保険料は個人負担、加入手続きは団体を通じて

 労災保険への特別加入は個人が直接申し込むのではなく、フリーランスのITエンジニアを構成員とする団体を組織し、その団体員が組織を通して加入手続きを行うことになります。

 組織の要件としては、構成員の範囲や構成員になるための手続きが明確で、事務体制や財務内容などから見て労働保険事務の処理が可能であることなどが求められます。

 保険料は個人負担。今回ITフリーランス支援機構が提出した資料によると、おおよそ年間賃金の1000分の3程度の費用が提案されているようです。

 加入団体の承認や加入手続き、保険料などは厚生労働省から正式な案内が公開されるはずですので、そちらをお待ちください。

 今回、労働政策審議会のヒアリングに応じたITフリーランス支援機構は、この特別加入団体の手続きに向けて準備を進めているとしています。

 このITフリーランス支援機構は、調べてみると今年の4月に設立されたばかりの団体で、5月には厚生労働省の労働政策審議会でプレゼンテーションを行っています。そのため、最初からフリーランスのITエンジニアの団体として労働政策審議会のヒアリングに応じ、その後の特別加入団体の道筋をつけるために設立されたようにも見えます。

 理事の顔ぶれを見ると、フリーランスのITエンジニアの案件仲介や営業代行、事務代行などを行う「PE-BANK」、同じくITエンジニア向けに求人や案件を仲介する「レバテック」、そして保険会社の三井住友海上火災保険の3社が中心となって設立されたようです。

 ちなみに似たような文脈で、筆者(新野)はIT系のフリーランスライターが、より有利な国の健康保険である文芸美術国民健康保険に加入できるようにするために、IT系フリーランスライターを構成員とする団体「一般社団法人 日本デジタルライターズ協会」を2015年に設立し、運営しています。

 フリーランスのITエンジニアの方々も、今回の特別加入団体に向けて自分たちのための団体を自分たちで立ち上げてみる、というのは面白いのではないでしょうか。

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