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マンガは“無限”の時代へ プラットフォーム最適化の向こう側にたどり着いた“タテ読み”という新標準小寺信良のIT大作戦(1/3 ページ)

» 2021年06月07日 16時39分 公開
[小寺信良ITmedia]

 少年期の筆者は、非常にゼイタクなマンガライフを送っていた。父はただの公務員であったが、祖父が定年後に始めた雑貨屋「小寺商店」もあった。今の感覚でいうなら、和風コンビニみたいなものだろうか。

 小学生になってマンガが読める年頃になると、店で売ってたマンガを好きなだけ読めるようになった。タバコ販売の店番をする駄賃代わりというわけである。当時タバコの自動販売機などはなく、全て手売りであった。昭和45年(西暦1970年)頃の話である。

 当時から少年ジャンプはスポ根の王道であり、次いでギャグ漫画が多かった少年チャンピオンが好きだった。少年サンデー、少年マガジン、少年キングなど、当時流通していたほぼ全部の漫画雑誌を通読できたことは大変幸運であった。

 中学、高校と進学するうちに、次第に興味は小説のほうに移っていって、マンガを読む機会は加速度的に減っていった。ああいうものは「少年誌」であって、おとなに近づけば卒業するものだと思っていた。

 進学で東京に出てきて、初めて電車通学なるものを経験したわけだが、車内で多くの大人が少年誌を読みふけるのを見て少なからず驚いた。筆者の田舎である宮崎市では、大人が少年誌を買って読んでいるところなど見たことがなかったからだ。

 「さすが都会は進んでるなぁ」とは思わなかった。「なんて幼稚なんだろう」という気持ちが先に立つと同時に、他人になんと思われようと自分の欲望をむき出しにして構わない東京の無関心こそが都会なのだと妙に感心したものだった。思えばそのあたりからずっと、自分もそんな気持ちで生きてきたように思う。

 ただ、自分も毎週少年誌を買うようにはならなかった。一度離れてしまうと、今の連載がさっぱり分からない。過去の習慣から、掲載作品の中で好きなものだけ拾い読みするだけだったので、自腹で買うにはコスパが悪い。面白そうなものだけ単行本で買うみたいな付き合い方になっていった。

プラットフォームが増えるマンガ

 ガラケー時代からスマートフォンの初期にかけてのマンガ文化をあまり深く知らないのだが、当時はまだ紙のマンガがベースにあり、画面解像度の関係から、コマを切り出して見せるという方法だったはずだ。そうした見せ方ではテンポが悪い、元のコマ割りの持つ芸術性を阻害するといった批判もあったと記憶している。

 そして電子書籍端末の台頭、タブレットの登場などを経て、マンガは電子書籍であっても、一面にレイアウトされたコマを読んでいくというスタイルになった。

 電子書籍ファーストで作品が出ることはまれで、収益化の面でもまずは紙で展開し、そのあと電子化、という流れであった。「電子化」という言葉からも、その元があるということが分かる。「自炊」ブームが起こったのも、電子書籍は利便性が高くとも球数が少なく、自ら電子化するしか方法がなかったからである。

 ここ数年のことだと思うが、ニュース配信アプリから読むニュース記事の中に、文章もあるが大半をマンガで説明するような記事が増えたように思う。テキストで読むよりも素早く内容を把握できるのだが、よく考えればブラック企業の実情や婚活、離婚、不倫といった、テキストではまず読まなかった内容の物ばかりだ。すでに単行本化されていて、その宣伝も兼ねての切り出しだったりもする。

 間口が広がったという見方もできるが、一方で別に知りたいと思ってなかった情報を、「マンガ」という手法に乗っかって頭に入れてしまうようになったともいえる。マンガにはそれほどのパワーがある。マンガコンテンツを作るには、テキストよりも時間もコストもかかるだろうが、ビューからすればそれでもペイするのだろう。

 こうしたニュースマンガの大半は、4コママンガ形式である。Web記事の大半は縦スクロールなのだが、縦の4コママンガはこのフォーマットになじみやすい。特にスマートフォンでは横幅も限られるため、4コマがピッタリはまるわけである。

 Facebookの広告にも、マンガの出稿は多い。もっともターゲティング広告だから、よく遭遇するかどうかは人によるとは思うが、少なからず出稿が増えたきっかけは2018年頃に発生した「漫画村事件」ではなかったかと思う。

 ご承知のようにこの事件は、違法アップロードされたマンガを無償で見られるとして広告費を稼いでいた「漫画村」が大問題になった事件で、国を巻き込んだブロッキング政策にまで発展した。

 結局はサイト閉鎖、運営者の逮捕となった。つい先日の6月2日、福岡地裁にて有罪判決が出たところである。

 この漫画村事件を受けて、合法マンガ配信サイトは無料の試し読みに力を入れ始めた。1日待てばクーポンがもらえて1話ずつ読み進められる仕組みも、多くの作品で定着していった。

 リアル書店では存在した「立ち読みから購入」へつながるルートの、電子書籍なりの解釈と考えることもできる。毎日アクセスされることで、おすすめ作品へのポップもエンカウント率が上がる。

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