テレワーク下での「通勤手当」と「在宅勤務手当」、どうやって支給する?社会保険料や税金への影響も(1/3 ページ)

» 2020年11月24日 07時00分 公開
[企業実務]

企業実務とは?

Photo

 「企業実務」は、経理・総務・人事部門の抱える課題を解決する月刊誌。仕事を進める上で必要な実務情報や具体的な処理の仕方を正確に、分かりやすく、タイムリーにお届けします。1962年の創刊以来、理論より実践を重んじ、“すぐに役立つ専門誌”として事務部門の業務を全面的にバックアップ。定期購読はこちら

 本記事は、2020年11月号に掲載された「テレワーク下での「通勤手当」と「在宅勤務手当」のバランスとは?」(著者:濱田京子)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集し、転載したものです。


 テレワークの導入により在宅での勤務が増えると、通勤手当の減額や廃止が検討されます。また、在宅勤務手当を創設すれば、その額や支給方法も考えどころです。ここでは、テレワークならではの手当支給について解説します。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

テレワーク導入に伴う在宅勤務手当の設計

1.テレワーク導入による検討事項の整理

 緊急事態宣言を受けてテレワーク勤務制度を暫定的に始めた企業が多くありましたが、その後も新型コロナ感染症の収束にめどが立たないこともあり、本格的にテレワーク勤務制度を検討する必要性が増してきました。

 テレワーク勤務制度の本格導入にあたり検討すべき事項はさまざまありますが、会社がテレワーク勤務をどのような方針で進めるのかによって課題は異なります。月に数回程度テレワークを行う制度設計の場合は、費用負担や在宅勤務手当などを検討する余地はあまりないですが、テレワーク勤務を積極的に活用する場合には検討すべき事項が増えます。

 ここでは、積極的にテレワーク勤務を実施することを前提として、在宅勤務手当と通勤手当についてどのような対応が考えられるのか、また、その影響はどの程度あるのか、という点を整理していきます。

2.在宅勤務が増えた場合の費用負担の対処方法

 以前から原則在宅勤務とするとの制度設計がされていた企業は少なく、制度があったとしても月に数日程度、在宅勤務が可能という制度設計がされている企業が多かったと思います。

 従って、在宅勤務手当を支給するなどの対処が必要であるとは考えていなかったわけですが、在宅勤務が原則となると、それに伴って発生する費用負担も無視できない範囲だと判断されるようになりました。

 在宅勤務で使用するパソコンなどの備品は会社が支給するケースであっても、実際に自宅で仕事を行っている間の光熱水道費などは仕事で使った部分と私生活分とを分離しづらいこともあり、労働者負担としていることがほとんどです。とはいえ、在宅での勤務時間が長くなることで光熱水道費などの負担が増えるだけでなく、それ以外の通信費等も労働者がまかなう部分が多くなることを想定して、在宅勤務手当の支給を検討することが必要となりました。

 在宅勤務に対する手当の考え方は各社それぞれで、在宅勤務の環境を整えるための備品購入の補助やオンラインコミュニケーションのための費用などとしている企業があります。

 テレワークを行うことによって生じる図表1にあるような事項については、あらかじめ労使双方で十分に話し合い、就業規則等において定めておくことが望ましいと言えます。

photo

 また、在宅勤務手当はどのような方法で支給することができるのか、支給額はどの程度とすることがよいか、という問題がありますので、まずは考えられる3つの支給方法について説明していきましょう。

(1)月額給与に手当として決まった金額を加算して支給する

 手当の名称は自由ですが、一定額を給与の一部となる手当として支給する方法があります。この場合は他の手当と同様の取扱いとなりますので、原則通り給与所得として課税されますし、社会保険の報酬や雇用保険の賃金の対象にもなります。

 社会保険については支給開始月が固定的賃金の変動月となりますので、結果的に随時改定の対象となる可能性があります。その他、当然ながら割増賃金の算定基礎からも除外できませんので、手当の支給により割増賃金単価が上がります。

 定額の時間外手当を支給している企業は特に未払いが起きないように再計算して支給額を決定する必要があります。毎月手当として支給するための原資だけではなく、割増賃金基礎になることや社会保険料への影響なども考慮したうえで判断することが必要となります。

(2)一時金として支給する

 在宅勤務を開始する際などに、まとめて「準備金」などと称して一時金として支給する方法があります。この場合も月額給与で手当として支給する場合と同じように給与所得として課税されますし、雇用保険の賃金対象にもなります。

 社会保険においては賞与と同じ取扱いとなると考えられますので、賞与としての保険料算定がされます。

(3)かかった費用を実費精算する

 ディスプレイ等を購入しその費用を会社が負担するなど、会社が備品を購入して貸与するという方法であれば、本人へ支給する給与・賞与とはなりませんので、特に影響はありません。

 しかし、実費精算するだけであれば、水道光熱費などの実費額が明確にならない労働者負担分についてはカバーできないと考えられます。

 そもそもテレワークをすることにより発生する労働者負担分の代替措置がなくてもよいのか、という論点がありますが、その点については、労働基準法89条5号で就業規則に労働者負担分の規定をすれば可能という仕組みになっているにすぎず、必ずしも代替措置は義務付けられているわけではありません。しかし、いままでは負担がなかったものが、テレワークにより負担増となることは不利益変更とも考えられることや、よりスムーズにテレワークをしてもらえるように環境を整備する一環として、一定の措置を講じている会社が多くあると考えられます。

       1|2|3 次のページへ

© 企業実務