北海道新幹線「函館駅乗り入れ」の価値とは? 80億円で実現可能、道内経済に効果杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/6 ページ)

» 2020年11月20日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 興味深い資料を入手した。「北海道新幹線 現函館駅乗り入れ構想 令和2年10月」。つい最近、函館市内で商工関係者に向けた講演資料として作られた。提唱者の元鉄道建設公団幹部に話を聞いた。「現在の新函館北斗駅ルートに関わった者として、函館市の皆さんの期待に添えなかった。そのおわびも兼ねて計画、試算した」という。

 ざっくりと結論を書くと、新函館北斗駅からスイッチバックする形で函館本線に乗り入れる。もちろん改軌を伴うけれども、改造費はフル規格新幹線よりもかなり安い。80億円程度で実現できるのではないか、という話だ。関東・東北地方から乗り換えなしに函館駅に到着できる。北海道新幹線が札幌駅に延伸したときは、札幌からはスイッチバック無し、乗り換えも不要。本州対函館より、札幌対函館の利点が大きい。道内経済の振興に役立つだろう。

入手した資料は図面、試算表などA4用紙60枚以上

新函館北斗は「通過前提」か

 そもそも、なぜ北海道新幹線は函館駅を作らず、新函館北斗駅になったか。北海道新幹線がもともと青森市〜札幌市間を結ぶ計画だからである。全国新幹線整備法に基づいて、1972(昭和47)年に北海道新幹線、北陸新幹線、九州新幹線(鹿児島ルート)が基本計画として定められた。北海道新幹線は起点を青森市、終点を旭川市とし、主要経由地を函館市付近、札幌市付近と策定され、のちに青森市〜札幌市が整備計画路線として格上げされた。

 この段階では各駅の位置は確定していない。基本は在来線の駅に併設だけど例外もある。例えば、大阪は西への延伸と再開発の余地がなかったため、現在の新大阪駅となったし、新横浜駅、新神戸駅も同様だ。北海道新幹線の函館駅を在来線と同じ位置にすれば、札幌延伸時にスイッチバックする形になる。だから札幌方面へ延長できる位置に新函館北斗駅を作った。

 しかし、函館市民としては複雑な心境だったはずだ。現函館駅に乗り入れ、スイッチバックの配線になれば、本州〜札幌間の列車は全て函館駅停車が約束されたも同然だ。しかし、現在の新函館北斗駅は通過列車も設定可能。新幹線列車の速達タイプは1県1駅という原則もあって、新青森〜札幌間ノンストップも設定できる。これは東北新幹線の新青森駅を決めるときも同様の議論があって、結局「スイッチバックは時間のロスが大きい」として現在の位置になった。主眼は東京〜札幌間の最短ルートであった。

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