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サツドラ富山浩樹社長が語る「ウィズコロナ時代のチェーンストア戦略」ドラッグストアから地域コネクティッドビジネスへ (1/5 ページ)

» 2020年10月23日 05時15分 公開
[大久保徳彦ITmedia]

 新型コロナウイルスの影響によって街の喧騒(けんそう)は大きく変わった。繁華街や観光地にあふれていた訪日外国人観光客も一切見かけなくなり、店頭への集客が生命線でもあった小売事業者にとっては厳しい情勢が続く。

 規模の追求という従来の基本戦略が機能不全を起こしつつある今、新時代のチェーンストアビジネス戦略はどうあるべきなのか――。サツドラホールディングスの富山浩樹社長に聞いた。

phot 富山浩樹(とみやま・ひろき) 1976年生まれ。札幌の大学を卒業後、日用品卸商社に入社。 2007年株式会社サッポロドラッグストアーに入社。営業本部長を経て2015年5月に代表取締役社長に就任。2016年8月にサツドラホールディングス株式会社を設立し、現在代表取締役社長兼CEO。北海道札幌市出身

「規模の拡大」では他社に勝てない

――新型コロナウイルスによる影響を、どう考えているか。

 2021年5月期の第1四半期は、売上高は前年同時期から微減したものの、販管費を抑制した結果、経常利益ベースでは1億3400万円の黒字へ転換することができた(前年同時期は1200万円の赤字)。一部店舗(旧本社含む)の閉鎖による特別損失があり純利益ベースでは500万円のマイナスという結果だった。

 だが新型コロナの影響で、売上の10%弱を占めていたインバウンド(訪日外国人)向けフォーマットの店舗の売上が大きく減っていることは事実だ。インバウンドフォーマットの店舗は、限界利益率が高い一方で固定費が高く、減収が利益に与えるインパクトが大きい構造になっており、コロナの影響を大きく受けることになった。

 これらの店舗については、店舗の採算性を見ながら閉店・休業・家賃交渉をすることによって固定費の削減を進めている。元の状況に戻るまでには1年以上かかる可能性もあるものの、インバウンド自体は今後の事業成長には不可欠だと思っているので、フォーマットとしては残しておきたい。客足が戻るタイミングで再開できるよう準備は進めたいと考えている。

phot 2021年5月期の第1四半期は、販管費を抑制した結果、経常利益ベースでは1億3400万円の黒字へ転換することができた(サツドラホールディングスの決算短信より)
phot リテール事業の多角化を進めている(決算説明会資料より)

――今後取るべき戦略についてどのように考えているか。 

 ドラッグストア単体のビジネスから「地域コネクティッドビジネス」に進化させることを戦略の中心に位置付けている。サツドラというブランドは北海道内では知られているし、地域目線では大企業として見られているかもしれない。だが、同じ北海道発のドラッグストアであるツルハが全国のトッププレイヤーであり、他にも各地に全国企業がある中で比較すると、当社は決して規模の大きいプレイヤーとはいえない。

 チェーンストアビジネスの本質は、拡大を続けることで経済合理性を出していくことにある。一方で、サツドラが現状の立ち位置から「規模拡大」にフォーカスしてナンバー1を目指していくには高いハードルがある。そういう状況で自分たちの価値をどう出していくかを考えたときに、「地域のインフラ産業をチェーンストアが担う」ことをコンセプトとした戦略を取っていくことを考えた。

――とはいえチェーンストアは本社の決めた基準を各店舗に浸透させ標準化を進めていくビジネスで、例外行動をいかになくしていくかがカギになる。貴社の戦略はその原則から外れているようにも見受けられるが。 

 地域を軸とした戦略を取るというといつもそのように勘違いされがちだが、決してチェーンストアの標準化の考え方から外れようとしているわけではない。

 例えば、当社は利尻島(北海道北部の人口5000人程度の島)にも出店をしているが、利尻島におけるサツドラの役割は「利尻島ならではのサービス」を提供することではなく、「利尻島にいても都市部と変わらないサービス」を提供できるようにすることだと考えている。地域格差、経済格差を無くしていくことこそがインフラとしてのチェーンストアの意義だ。いかに店舗の標準レベルを上げていくかがチェーンストアとしての差別化だと考えている。

 一方でそれはとても時間がかかることでもあるので、別の軸として「地域コミュニティー」というテーマに着目している。当社では、”つながる、集う、楽しい”をコンセプトに「地域で活動するコミュニティー」を積極的に応援する仕組みを提供している。これはサツドラの利益に直結する類のものではないが、時間をかけて地域住民とのウェットな関係作りを継続していくことが将来的にサツドラならではの資産になっていくと考えている。

phot サツドラが提供するWiFiの事業。「利尻島にいても都市部と変わらないサービス」を提供できるようにすることが同社の役割と富山浩樹社長は答えたが、例えば北海道では電波が悪い町村も多く、インフラとしてのチェーンストアの意義を体現している
phot 通常のどら焼よりボリューム感たっぷりの「さつどら焼」などユニークなオリジナル商品が並んでいた
phot サプリメントの充実を図っており、オリジナル商品「Wellness Navi」シリーズを展開
phot サツドラはフィットネス事業も展開し、オリジナルプロティンも開発している。サツドラとフィットネス両方で販売している
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