国内初の個人向け不動産STO実施 再生古民家の持ち分を譲渡可能なトークンで

» 2020年10月20日 15時53分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 有休不動産を再生するクラウドファンディングサービス「ハロー!RENOVATION」を営むエンジョイワークス(神奈川県鎌倉市)は10月20日、一般個人投資家向けの不動産STOを行うと発表した。STOとは、一般に有価証券をブロックチェーン上のトークンとして発行する資金調達手段。LIFULL(東京都千代田区)とSecuritize Japan(東京都中央区)が構築したプラットフォームを使って実現する。「葉山の古民家宿づくりファンド」への出資が対象。

 ハロー!RENOVATIONは、各地の有休不動産への出資をクラウドファンディングで募り、集まった資金で再生を行うプロジェクト。出資額に応じて返礼品がもらえる「購入型」と、出資額に応じて分配金が得られる「投資型」の2種類がある。今回の葉山は「投資型」で2%の利回りを想定している。

 出資者にはセキュリティトークン(ST、有価証券トークン)が発行され、イーサリアムのブロックチェーンで管理される。STの発行管理の仕組みは、STO大手のSecurtizeの技術を用い、不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S」を提供するLIFULLが、プラットフォームとして提供する。

 権利をST化することで、ブロックチェーン上で持ち分保有を証明でき、譲渡時はイーサリアムのスマートコントラクトを介して、暗号資産との即時交換(DVP)が可能になる。

STOスキーム。LIFULLとSecuritizeが提供するプラットフォーム上でSTが発行され、他の投資家への譲渡も可能になる(プレスリリースより)

 「ハロー!RENOVATIONはまちづくりに携わるためのファンドなので、5年など長期型になる。運用期間中の持ち分の譲渡は困難だったが、ST化によって持ち分の譲渡が可能になると流動性が増し、新しい参加者を増やせることで活性化することを期待している」(エンジョイワークス)

 STのプラットフォームを提供するLIFULLは、「これまで不動産特定共同事業の出資持分は、譲渡における手続きが複雑で、投資家同士のセカンダリ取引が困難だった。STを用いることで、譲渡を前提とした不動産小口投資が可能になり、多くの人々にとって身近になることが期待される」としている。

 具体的には、プロジェクトが成立した時点で、希望者はイーサリアムのウォレットを用意し、権利をSTで受け取ることができる。当初希望しなかった出資者も、あとからST発行を依頼することが可能だ。

 マッチングの仕組みは現状用意されないため、受け取ったSTを譲渡する際にはSNSなどで相手を探す。LIFULLが提供するプラットフォームを使い、エンジョイワークスが用意するUIを使って譲渡を実行する。分配金は、出資者がエンジョイワークス側に登録した銀行口座に対して支払われる。STの譲渡を受ける投資家は、事前にエンジョイワークスに登録し、KYCなどを行う。情報がない投資家にはトークンが渡らないよう、Securitizeの仕組みで制御している(4月の記事参照)。

 エンジョイワークスは、毎年権利の基準価格を参考価格として公表し、譲渡時の支払いには、現状イーサリアムまたはERC20トークンが使われる。

 エンジョイワークスは、ウォレットの用意などのハードルの高さから、今回のSTOはテスト的に位置づける。実際の運用開始は2021年1月上旬を予定している。

 今回のSTOは、金融商品取引法に基づくものではなく、不動産特定共同事業法のもと、出資持分をトークン化したもの。株式や社債など広く有価証券をトークンとして扱うSTOは、20年4月の金融証券取引法の改正で国内で実行可能になった。SBI証券なども、STOを使い、第三者割当増資やデジタル社債などを提供する計画だ。

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