コロナ禍の長期化で巣ごもり需要が高まり、家で調理する機会が増えている――。このタイミングの良さも手伝って、シャープが2015年に発売した水なし自動調理鍋「ヘルシオ ホットクック」がヒットを続けている。派手な宣伝戦略を取っていないにもかかわらず、2020年の4〜6月の販売台数は前年比3倍まで急増した。
何が働く女性のニーズを捉えたのか。開発当初の14年から担当している国内スモールアプライアンス事業部調理技術部の栗原範子技師に聞いた。
「ホットクック」には3つの技が仕込まれている。1つが温度と蒸気のダブルセンサーにより、微妙な火加減をコントロールすることで、匠のとろ火で焦げ付きの心配がないこと。2つ目が水を加えないで調理する「無水調理」を可能にした鍋の中で蒸気を循環する技術だ。これは電気鍋としては業界初となる。鍋のふたに旨(うま)みドリップ加工がされ、内ふたに蒸気が触れて水分にして食材へ戻すので、普通なら水へと流出する栄養素が食材に残る仕掛けになっている。
3つ目が、鍋に入れた食材を混ぜるシャープ独自の「匠のまぜ技」。この技術は最初、炊飯器に導入された。鍋の上部にかきまぜる2本の棒状のまぜ技ユニットが内蔵され、タイミングよく食材をかきまぜる。無水鍋のため、鍋の底に食材が入っている状態では強めにまぜる必要があり、ある程度加熱されてくると、今度は緩めにまぜる必要がある。食材の量に応じてまぜる回転数を制御できるので、煮崩れを起こさずに味をしみこませられるという。
栗原技師に開発の最大の困難は何だったかを問うと「無水調理をウリにしたいという思いと、かきまぜる技術との共存が難しかった。少ない調味料でいかに食材の味なじみをよくするか。そして(食材を)煮崩れさせないか」だったといい、「どのタイミングで、どの程度の強さで食材をまぜるか。このポイントを見つけるのに苦労した」という。
例えば肉じゃがを普通の鍋で作る場合は、だし汁を相当量入れて作る。一方、ホットクックで作る場合は砂糖、しょうゆ、酒、みりんなど最低限の調味料しか使用しない。そして、加熱する当初は鍋の底にしか水分がない状態のため、まぜ技ユニットで混ぜようとしても硬いじゃがいもはなかなか混ざらないのだ。
「まぜ技ユニットをどんな風に回していけばいいのかを何度も試行錯誤した。加熱が進むとまぜ技ユニットで混ぜられるようにはなるが、強すぎるとじゃがいもが砕けてドロドロ状態になってしまう。その辺りの力加減を見つけるのに時間がかかった。どのぐらいまぜ技ユニットが回ったのかをコントロールしてパターンを見つけるうちに、ひらめきがあって道が開けた。このノウハウは他社にはマネができない」
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