10月23日、すでに発表されていたiPhone 12/12 Proが消費者の手元に届き始める。
「想定よりも売れそうだ」というアナリストの声もあるが、想定をどこに置くかによってその評価は変わる。
筆者の周囲で言えば、もはやイノベーションを起こす存在ではない、内蔵カメラの改良頼りで本質は変化していないなど、辛口な意見が多い。世の中を変え続けてきた存在だけに、iPhone自身の社会への影響力が大きくなってくると、やはり辛口の視点にならざるを得ないのだろう。
毎年のように新しいiPhoneが発売され続けてきた結果、以前ほど市場の反応が敏感ではなくなったことは確かだ。
しかし、それはアップルという会社のパフォーマンスが落ちてきているのではなく、iPhone、さらにいえばスマートフォン全体の市場が成熟しているからに他ならない。スマートフォンは生活の一部であり、ちょっとした贅沢(ぜいたく)や自己表現のための道具ではなくなっている。製品ジャンルとして成熟し、特別な製品だとは感じられなくなっていることは確かだ。
アップルも当然ながら、こうした一種のマンネリに対して、モノづくりの視点からを抵抗を続けてきた。彼らがまるで高級腕時計でも作るかのようにiPhoneを開発してきたことからも、そうした方向性が読み取れる。
アルミやステンレスといった、物質として安定した素材を多用し、パーツの合わせ面も切削工程で精密に生産し、高精度の建付けにした。ディスプレイは言うに及ばず、スピーカーやマイクの音質、内蔵カメラの品位などに徹底してこだわり、追い込むことでカタログのスペックではなく、使用者の感性に訴えかける部分に気持ちを注いでいる。
筆者の手元にはiPhone 12/12 Proのデモ機があるが、両製品とも実に丁寧に作り込まれている。とりわけ、腕時計と同等のPVA処理が施されたステンレスフレームのiPhone 12 Proは、表裏ともにガラスが用いられた外装との合わせも精密で、およそ買い替えサイクルが数年のデジタルガジェットだとは想像しにくい。
iPhone 12に目を向けると、iPhone 8、XR、11と積み重ねてきた「中核機ではあるが高品位」という路線、ここに極まれりという仕上げになっている。フレーム素材こそアルミだが、製品の組み立て精度は12 Pro同等で(そもそも外形寸法は全く同じだ)、他社のハイエンドモデルを超える作りの確かさがある。
もっとも、そうした手法が飽きられているとは思わないが、消費者は“慣れてきている”のかもしれない。
スマートフォンというジャンルが一般化するにつれ、それは特別なものではなく日常の道具になっていく。アップルが徹底して、まるで宝飾品のように細かなディテールにこだわった製品を作ってきたのは、スマートフォンが生活に浸透するに従って、特別な存在ではなくなることへの抵抗を試みた結果ではないだろうか。
しかし、そうした抵抗にも限界はある。
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