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PlayStation 5体験取材から考える、PS5の「狙い」と「課題」(1/3 ページ)

» 2020年10月08日 13時21分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

 先日、PlayStation 5(PS5)の実機体験取材に行ってきた。非常に面白い体験だった。

 本当は、こうした機会はもっと頻繁にあるべきものなのだろう。だが、コロナ禍にあって通常の体験イベントが開催できず、価格やデザインの発表も大幅に遅れた。一般向けのイベントも、感染拡大防止の観点から開催の予定がない。発売直前のこの時期に、一部メディアやYouTuberに限定された形で行われたのも無理からぬところがある。

photo PlayStation 5

 その貴重な体験を得た側としては、それを生かしてみなさんに何かを伝えねばならない。ストレートなレポートは筆者もすでに別媒体で記事化したし、ITmediaにも別の記事が掲載されている。

 そこで、ストレートな体験記事からは少し離れ、「体験から考えたPS5の狙い」のようなものを語ってみたいと思う。

 全ての答えは「ゲーム機は必要なのか?」という根源的な問いにつながっている。

「新しいゲーム機でなければならない」ことをいかに示すのか

 PS5の予約は困難を極めている。筆者もまだ予約できていない。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は「PS4の初年度出荷台数以上を、年度内に出荷する」としているので、最終的には相当数が供給されるのだろう。だが、発売初週の流通量には限界があり、世界レベルでも日本だけでも需要を捌(さば)けていない。SIEには需要を満たす努力をお願いしたいと思うし、少しでも「欲しい人にちゃんと行き渡る」ように、転売対策を進める必要はあると思う。

 一方で、初日にここまでPS5を欲しいと思う人がいるのは、それだけ熱心なゲームファンが日本にも、世界中にもいるということの証でもある。

 コンピュータゲーム産業は今や成熟した存在だ。映画や書籍、音楽と同じく「どんな人にとっても必要なもの」でありつつ「それがないと生きていけない人々」に支えられている。だとするならば、今後もその両方をいかに満たすか、が重要な点でもある。

「もはやマスはスマートフォンで満足しているから」

「ゲームハードにお金を払う人は少数派でパイが小さいから」

 それは事実なのだが、趣味性が高い全てのビジネスは、圧倒的なヘビーユーザーとライトユーザーの積み重ねである。多くの人は年に1、2本しかゲームを買わないし、年に数週間の「熱狂」があれば十分なのだろう。そうした人々の支持がなければ「数百万本」「数千万ダウンロード」というヒットは生まれない。一方で、新しいゲームも定番のネットワークタイトルも日常的に「遊び続ける」人々がいて、はじめて市場が活性化する。

 PS4以降、より明確になったのは、「マスとしての市場」とは性質が違う形で、ゲームを熱心にプレイするファンの層が重要である、という点だ。ネットワークサービスによってプレイヤーをつなぎ、面白いゲームを提示し、基本プレイ無料のバトルロイヤル・ゲームと大作RPGの両方で収益を得る。スマートフォンという大きな市場とは別の形で収益が拡大しうることを明示したのが、PS4がヒットした最大の理由といっていい。

 一方、同時期にはゲーミングPCでプレイする人々も増えている。コストは高くなるが、高画質で自由な機器構成でゲームをしたいというニーズも増えているわけだ。ゲームとしての規模は大手開発に比べると小さめながら、より自由な発想で作られた「インディーゲーム」の勃興もある。そうしたゲームを支持する層は「遊び続ける」人々であり、PS4の支持層とかぶる。

 PS4で「ファン重視」のモデルが成功したからといって、今後もそのままでいいわけではない。ファンも同じ場所に止まっているわけではないからだ。

 そのままでは、可能性を拡大していくスマートフォンやPCと、クラウドゲーミングの間に挟まれて消えてしまう。「クラウドに負ける」ことは、今はまだ懸念に過ぎないレベルだが、5年後に「ゲームを楽しむ方法」として当たり前の一つの手段になっている可能性は否定できない。ここからの10年、ファンに「やはり毎日いい環境でプレイするならゲーム機を持っていたい」と思ってもらえる環境、すなわち、新しいものを生み出せる可能性をゲームメーカーとファンに示すことが、「家庭用ゲーム機」というビジネスには必要なのだ。

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