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iPhoneをシアターに変えたAppleの「空間オーディオ」

» 2020年10月02日 15時37分 公開
[山本敦ITmedia]

 Appleが9月にリリースした「iOS 14」には、ワイヤレスイヤフォンの「AirPods Pro」と組み合わせて臨場感のあるバーチャルサラウンドが楽しめる「空間オーディオ」が追加されました。iPhoneがシアターになるといっても過言ではない効果が得られます。

iOS 14に、AirPods Proとの組み合わせでバーチャルサラウンド再生が楽しめる「空間オーディオ」が追加されました

 空間オーディオは、左右のイヤフォンから出る音声に対して「指向性オーディオフィルター」と呼ばれるデジタル処理(周波数調整)を施し、前方・後方の左右、センター、そして高さ方向を含むサラウンド音場を擬似的に作り出す技術です。対応するビデオコンテンツについては後ほど補足しますが、音声トラックが5.1chや7.1chのサラウンドフォーマット、または米Dolby Laboratoriesのオブジェクトオーディオ技術「Dolby Atmos」で収録したものが基本になります。

 空間オーディオにはもう1つ、AirPods Proに内蔵されている加速度センサーとジャイロセンサーの情報を元にユーザーの頭の向き、体の向きとの位置関係をリアルタイムに解析し、コンテンツの音像を正しい位置に定位させる「ダイナミック・ヘッドトラッキング」と呼ばれる技術が含まれます。バーチャルサラウンド再生とダイナミック・ヘッドトラッキングを掛け合わせることで没入感を高める仕組みです。

「Apple TV+」に対応コンテンツ

 ペアリングを済ませた後、iPhoneのBluetooth機器リストからAirPods Proを選択すると、メニューの中に「空間オーディオ」が追加されています。見つからない場合はAirPods Proのファームウェアが最新バージョンの「3A283」に更新されていない可能性があるので、一度接続を解除してから再度ペアリングし直しましょう。iPhoneがWi-Fiに接続し、AirPods Proを入れた充電ケースが電源に接続されていれば自動アップデートが動きます。

 空間オーディオがメニューに表示されたら「機能を試してみる」で空間オーディオの効果をプレビューできます。通常のステレオとは違う立体的な聞こえ方に驚くかもしれません。

AirPods Proの設定メニューから空間オーディオの「機能を試してみる」を選択すると効果のイメージがつかめます

 では、対応しているビデオにはどのようなものがあるのでしょうか。9月下旬に調べた限りでは、アップルのサブスクリプション型動画配信サービス「Apple TV+」で公開しているビデオコンテンツの一部が空間オーディオに対応していました。

対応ビデオコンテンツはApple TV+にありました。映画「グレイハウンド」を視聴します

 例えばトム・ハンクスが主演するApple TV+オリジナルの映画「グレイハウンド」は、Dolby Atmos音声に対応しています。冒頭から54分前後。海の上で戦艦同士が戦うシーンは、立体的に広がる音場空間の中を砲弾が縦横無尽に飛び交う迫力が圧巻です。奥行き方向の描き込みが豊かさを増し、ダイアローグ(役者のセリフ)も手前に迫り出して輪郭が鮮明に。つまり聞こえやすくなります。

 頭の向きを変えると、iPhoneの画面の方向にダイアローグが定位したまま、砲弾が横から飛んでくる方向に顔を向けたような感覚を味わえます。ヘッドトラッキングは素早く、正確に機能しました。

 グレイハウンドのように作品紹介ページに「Dolby Atmos」の表記があるコンテンツは確実に空間オーディオを楽しめます。その他、Apple TV+でレンタル・購入して見られる都度課金制の映画も、元が5.1ch以上のサラウンド音声を収録している作品なら空間オーディオの効果は期待できます。表記がない作品は事前に調べたほうが良いでしょう。

作品紹介に「Dolby Atmos」の表記があるものはほぼ確実に空間オーディオが体験できます

スマホとイヤフォンを進化させる画期的な技術、課題は?

 最初に空間オーディオを体験したときは、スマートフォンと完全ワイヤレスイヤフォンの組み合わせだけで、これほどまでに高い精度でバーチャルサラウンドとヘッドトラッキングを実現したことに驚きました。AppleはiPhoneとAirPods Proのハードとソフトを一体のものとして開発できるのが強み。その強みをいかんなく発揮しています。

 課題はせっかくの空間オーディオを体験できるコンテンツがまだ少ないこと。Apple TV+(月額600円)のオリジナルコンテンツはまだ数が限られています。

 Appleは今後、社外のデベロッパーに対してステレオ音源のコンテンツを空間オーディオにアップミックスするためのAPIや、ダイナミック・ヘッドトラッキングに対応するためのAPIを提供する考えです。スマホによるコンテンツ再生を進化させる画期的なテクノロジーですから、多くの人が手軽に体験できる環境になってほしいと思います。

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