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Bluetooth接続切り替えの歴史が変わった Appleの「自動切り替え」はどこが画期的なのか(1/2 ページ)

» 2020年09月25日 15時24分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

 iOS 14/iPadOS 14の正式版が公開された。いきなりの公開は開発者にかなり負担が大きく、混乱を招いているのはちょっとどうかと思うのだが、それはそれとして、良い機能が多いのも事実だ。

 特に、AirPods Proとのセットで実現する「空間オーディオ」と第2世代AirPods以降で使える「Bluetooth接続先の自動切り替え」は素晴らしい。素晴らしさを急いで伝えるべく、正式版発表に合わせて急いで記事も作ったくらいだ。

 日常的な部分で特に価値が大きいのは「自動切り替え」だろう。これは「複数のApple製品同士を使っている場合」という条件はあるものの、極めて便利だ。というよりも、ワイヤレスヘッドフォンの使い勝手を画期的に進化させる一歩といっても過言ではない。

photo Appleが採用した「自動切り替え」。再生する機器を変えると接続する機器が自動的に変わる

 Bluetoothヘッドフォンにはいくつかの欠点があるが、その1つは「複数の機器で使うのが意外と面倒だ」ということ。有線のヘッドフォンならケーブルを差し替えれば済んでいたが、Bluetoothでは特殊な例を除き、「使っていた機器との接続を解除する」「新たに使う機器と接続する」という手順が必要で、そのために設定切り替え操作が必須になる。

 それを解決するため、これまでいろいろな方法が試みられてきたが、今回Appleが取ったのは、「接続切り替えを完全自動化する」という究極の解決方法なのである。

 筆者は「Bluetooth接続の切り替えは簡素化すべし」と強く主張し、そこにこだわって機器を選んできた。だがそれでも「その問題を解決する必然性に気づいていないメーカー」すらまだいるのが実情である。

 というわけで、「これまでどのような方法が試みられてきたのか」「各社のアプローチがどう違うのか」を少しまとめてみたい。

この記事について

この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2020年9月21日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから

NFCからAirPodsまで、「接続切り替え」工夫の歴史

 Bluetooth切り替えの簡素化において、最も初期から試みられてきたのは「マルチポイント接続」だ。複数の機器での接続を同時に待ち受ける方法である。

 ただ、過去においては「接続するプロファイルを変える」ことで実現しているものが多かった。

 Bluetoothは用途に応じて通信の手順を「プロファイル」という形で定めている。音声通話なら「Headset Profile (HSP)」「Hands-Free Profile(HFP)」、音楽なら「Advanced Audio Distribution Profile(A2DP)」がそれだ。

 初期のマルチポイント接続では「電話はHSP、PCやオーディオ機器はA2DP」と決め打ちをして、別々につなぐものが多かった。スマートフォン以前、フィーチャーフォンの時代ならそれでもよかったのだが、今は複数の機器で音楽も通話もする。だから、これでは意味がない。また、使い方もさほどシンプルにはならない。

 そんなわけで、「プロトコルごとのマルチポイント接続」はあまり顧みられなくなっていく。1つのデバイスとつながるならまあいい、という時代が続くわけだ。

 その中に出てきたのが2つのアプローチだ。

 1つは、ソニーが積極的に展開した「NFCでタップして接続を切り替える」という方法。使う機器にタップすればペアリング設定と切り替えが終わる。これは動作的にもシンプルであり、実にスマートだ。これをソニーが提案したのは2012年のことで、多数のメーカーが採用している。

photo NFCでの接続切り替え。機器にタップして接続する

 とはいうものの、NFCを使うということは、ヘッドフォン側にNFCを搭載しないといけないわけで、ヘッドフォンメーカーにはコスト増となる。しかも、AndroidはOKだがiPhoneでは対応が進んでおらず(仕組み上、今はできるが、そういう使い方はまず行われていない)、PCでの対応も、Bluetooth接続以外のメリットが小さいため、ほとんどされていない。

 そんな中、2016年にAppleが「AirPods」を発売した時に採用したのが、「接続上書き方式」とでもいうべきやり方である。

 接続切り替えが必須であるのはしょうがない。そこで、切り替え作業のうち「直前まで使っていた機種との接続を切る」という作業をなくし、「別の機器から接続要求が来たら、ヘッドフォンの側で前の機種との接続を切り、接続要求が来た機種とつなぐ」というやり方にしたのである。さらには、Appleの機器同士ではiCloudで連携し、Bluetooth接続情報も共有した。

 これによって、「使う機器側でつなぐ」という作業だけになり、大幅に簡便化した。この「上書き式」は、Apple製品同士だけでなく、他の機器とペアリングした際にも働く。

 ユーザーにとっても実装するメーカーにとっても比較的シンプルなので、このやり方は意外と採用メーカーが多い。カタログなどに記載されることはまずないので、分かりにくいのが難点だが。

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