単身で暮らす人の“終活”をワンストップで引き受ける「おひとりさま信託」を手掛ける三井住友信託銀行。サービスのリリースからわずか数カ月で、同サービスの一部機能をデジタル化した。その背景で進んだ、金融業界では異例だという「スモール開発/スピード開発」のきっかけとは。
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三井住友信託銀行が、新サービスのデジタル化に注力している。その一つが、2019年12月から提供を開始した単身世帯向け新商品「おひとりさま信託」だ。
人生の終わりに向けた準備活動、いわゆる「終活」に関わる手続きを代行する同サービスは、死後に備えて自身の希望を書き留めておく「エンディングノート」機能を2020年3月にアナログからデジタル化した。これにより、ユーザーはスマートフォンやPCからいつでもマイページにログインし、エンディングノートを確認して見直せるようになった。また、携帯端末へのSMSを使った定期的な安否確認も可能になった。
実は、デジタル化の過程では新たな試みがあった。サービスのスクラッチ開発が一般的な金融業界で、セールスフォース・ドットコムのSaaS(Software as a Service)である「Salesforce Community Cloud」を活用し、スピードを重視した開発を実行したのだ。これまでの“慣行”を破ったきっかけは何だったのか。2020年9月に開催された日本IBMのオンラインイベント「Think Summit Japan」で、同行の関係者が語った。
三井住友信託銀行が手掛ける「おひとりさま信託」は、顧客(契約者)の“終活手続き”に、ワンストップで対応する。あらかじめ死後事務委任契約に必要な費用を精算した上で、生前に顧客から信託された財産を、顧客が指定した相続人(帰属権利者)に支払う。葬儀や遺品整理といった手続きもまとめて担う。
同行の谷口佳充氏(人生100年応援部)は「これまでは葬儀や埋葬をはじめ、家財やデジタル遺品の整理、公共サービスの事務手続きは、項目ごとに個別の会社に相談しなければならなかった。おひとりさま信託はこうした手続きの煩雑さを解消し、資金管理と併せて提供する」と説明する。
日本では単身世帯が増加している。国立社会保障・人口問題研究所は「2040年には2.5世帯に1世帯が単身世帯になる」(「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(2018))と予測している。また、総務省統計局が公開した平成30年の「住宅・土地統計調査結果」では、全国の空き家数は846万戸で、総住宅数に占める空き家の割合は13.6%と過去最高になった。
一方、2019年に経済産業省が発表した「特定サービス産業実態調査報告書」によれば、葬儀市場は1兆5000億円規模に拡大しているという。谷口氏は「高齢者増加に伴い、ライフエンディング市場は拡大が見込まれる」と指摘する。
生前の意思を後世に残す手段として注目されているのが「エンディングノート」だ。これは死後事務に関する希望を記録しておくもので、死後事務委任契約の目録になる。ただし、遺言書のような法的な効力はない。
エンディングノートに記載されている内容は、誰かが実施しなければ単なる“覚え書き”だ。反面、そこに書かれている内容には、デジタル情報にアクセスするためのIDやパスワードをはじめ、重要な個人情報が含まれる場合があり、安全な保管が必要だ。また、エンディングノートは「一度書いたら終わり」ではない。外部環境や心情の変化によって何度も書き直すことがある。しかし、記載内容の訂正には煩雑な作業が必要になる。
谷口氏は「エンディングノートのこうした課題は、デジタル化で一気に解決する」と語る。
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