“終活”サービスを4カ月でデジタル化 長期のスクラッチ開発が常識だった三井住友信託銀行を変えたきっかけ標準機能の範囲でスモール&スピード開発

単身で暮らす人の“終活”をワンストップで引き受ける「おひとりさま信託」を手掛ける三井住友信託銀行。サービスのリリースからわずか数カ月で、同サービスの一部機能をデジタル化した。その背景で進んだ、金融業界では異例だという「スモール開発/スピード開発」のきっかけとは。

» 2020年09月17日 07時00分 公開
[鈴木恭子ITmedia]

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 三井住友信託銀行が、新サービスのデジタル化に注力している。その一つが、2019年12月から提供を開始した単身世帯向け新商品「おひとりさま信託」だ。

 人生の終わりに向けた準備活動、いわゆる「終活」に関わる手続きを代行する同サービスは、死後に備えて自身の希望を書き留めておく「エンディングノート」機能を2020年3月にアナログからデジタル化した。これにより、ユーザーはスマートフォンやPCからいつでもマイページにログインし、エンディングノートを確認して見直せるようになった。また、携帯端末へのSMSを使った定期的な安否確認も可能になった。

おひとりさま信託が提供するデジタル版「エンディングノート」のログイン画面。ユーザーはスマートフォンやPCからいつでも内容を確認できる(出典:三井住友信託銀行)

 実は、デジタル化の過程では新たな試みがあった。サービスのスクラッチ開発が一般的な金融業界で、セールスフォース・ドットコムのSaaS(Software as a Service)である「Salesforce Community Cloud」を活用し、スピードを重視した開発を実行したのだ。これまでの“慣行”を破ったきっかけは何だったのか。2020年9月に開催された日本IBMのオンラインイベント「Think Summit Japan」で、同行の関係者が語った。

単身者の財産相続や葬儀、遺品整理などの手続きを代行

 三井住友信託銀行が手掛ける「おひとりさま信託」は、顧客(契約者)の“終活手続き”に、ワンストップで対応する。あらかじめ死後事務委任契約に必要な費用を精算した上で、生前に顧客から信託された財産を、顧客が指定した相続人(帰属権利者)に支払う。葬儀や遺品整理といった手続きもまとめて担う。

三井住友信託銀行の谷口佳充氏(人生100年応援部)

 同行の谷口佳充氏(人生100年応援部)は「これまでは葬儀や埋葬をはじめ、家財やデジタル遺品の整理、公共サービスの事務手続きは、項目ごとに個別の会社に相談しなければならなかった。おひとりさま信託はこうした手続きの煩雑さを解消し、資金管理と併せて提供する」と説明する。

 日本では単身世帯が増加している。国立社会保障・人口問題研究所は「2040年には2.5世帯に1世帯が単身世帯になる」(「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(2018))と予測している。また、総務省統計局が公開した平成30年の「住宅・土地統計調査結果」では、全国の空き家数は846万戸で、総住宅数に占める空き家の割合は13.6%と過去最高になった。

 一方、2019年に経済産業省が発表した「特定サービス産業実態調査報告書」によれば、葬儀市場は1兆5000億円規模に拡大しているという。谷口氏は「高齢者増加に伴い、ライフエンディング市場は拡大が見込まれる」と指摘する。

 生前の意思を後世に残す手段として注目されているのが「エンディングノート」だ。これは死後事務に関する希望を記録しておくもので、死後事務委任契約の目録になる。ただし、遺言書のような法的な効力はない。

 エンディングノートに記載されている内容は、誰かが実施しなければ単なる“覚え書き”だ。反面、そこに書かれている内容には、デジタル情報にアクセスするためのIDやパスワードをはじめ、重要な個人情報が含まれる場合があり、安全な保管が必要だ。また、エンディングノートは「一度書いたら終わり」ではない。外部環境や心情の変化によって何度も書き直すことがある。しかし、記載内容の訂正には煩雑な作業が必要になる。

 谷口氏は「エンディングノートのこうした課題は、デジタル化で一気に解決する」と語る。

おひとりさま信託の提供の仕組み。死後事務は三井住友信託銀行や三井トラスト・ホールディングスが設立した「安心サポート」が実施する(出典:三井住友信託銀行)

スクラッチ開発が常識だった現場を「スピード重視」「標準機能でスモール開発」に変えたきっかけ

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