「金太郎アメ的なゼネラリスト人材」育成が目的ではなくなる──デジタル時代の人事部門に求められる「3つの能力」有識者が語る(1/4 ページ)

» 2020年09月16日 07時00分 公開
[内藤琢磨ITmedia]

伝統的日本型人材マネジメントにおける人事部ケイパビリティ

 多くの日本企業は、終身雇用を前提とした新卒一括採用、職務遂行能力(職能)をベースとした相対的に遅めの昇格運用、徐々に報酬が安定的に上昇する長期決済型の賃金システムといった日本型人事制度を運用している。そして、その制度運用によって輩出されるいわゆるゼネラリスト人材が日本の企業経営を支えてきた。

 これまで人事部門は、この「伝統的日本型人材マネジメントモデル」を少しずつ時代の要請に応じて手直ししながら、企業の各組織や階層にゼネラリスト人材を安定供給することをミッションとし、人事部門の存在意義を保持してきた。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 こうした時代において、人事部門に必要不可欠なケイパビリティ(組織能力)は「バランス能力」であった。

 とがった人材よりも会社の組織風土にフィットし、不平を言わずいろいろな仕事をやってくれる人材を採用、組織横断的に全従業員の職務遂行能力を把握し、不公平がないように昇進・昇格運用を管理し、事業部門やコーポレート組織からの人員配置、異動といった要望に対して独自の人材情報を駆使しながら大所高所から運用を行う。その際に重要なのは「他社がどうしているか」「自社の過去のやり方と矛盾がないか」「組織間の縦・横・斜めの整合は取れているか」を適切に判断できるバランス能力である。

 ところが、デジタル時代の到来はこうした日本企業の伝統的日本型人材マネジメントシステムだけでなく、人事部門に求められるケイパビリティにも変容を迫ろうとしている。

著者紹介:内藤琢磨

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 (株)野村総合研究所 コーポレートイノベーションコンサルティング部 組織人事・チェンジマネジメントグループ グループマネージャー 上席コンサルタント。

 2002年野村総合研究所入社。国内大手グローバル企業の組織・人事領域に関する数多くのコンサルティング活動に従事。専門領域は人事・人材戦略、人事制度設計、グループ再編人事、タレントマネジメント、コーポレートガバナンス。

 主な著書・論文に『NRI流 変革実現力』(共著、中央経済社、2014年)、『「強くて小さい」グローバル本社のつくり方』(共著、野村総合研究所、2014年)、『デジタル時代の人材マネジメント』(東洋経済新報社、2020年)などがある。


デジタル人材と日本型人材マネジメントモデルの非親和性

 端的にいえば、デジタル人材は日本型人材マネジメントモデルでは到底管理することができない。例えば、以下のような点である。

(1)デジタル人材は専門人材であり、「ゼネラリスト型育成」は向かない

(2)デジタル人材には時価としての外部労働価値が存在するため、若年時は低賃金、中高年時は高賃金といった「長期決済型の賃金システム」は適用し難い

(3)デジタル人材の評価は入社年次間パランスといった相対評価ではなく、ジョブディスクリプションで明記された役割を果たし貢献できたかで絶対評価する方がふさわしい

 IT企業やITスタートアップ企業を除く多くの日本企業においては、デジタル人材と呼べる職種・人材は社員全体のごく一部であるが、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するコア人材がデジタル人材である以上、日本企業は早晩旧来型の人材マネジメントモデルの見直しをはかる必要がある。

 必然的に「バランス能力」が最も必要とされた人事部門の必要なケイパビリティ―も大きく見直されなければならない。

デジタル時代に求められる人事部門のケイパビリティ

 ではデジタル時代に人事部門に求められるケイパビリティとは何かを述べていきたい。

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