観光列車は“ミッドレンジ価格帯”の時代に? 新登場「WEST EXPRESS 銀河」「36ぷらす3」の戦略杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/6 ページ)

» 2020年09月18日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 2020年9月11日、JR西日本は新たな夜行観光列車「WEST EXPRESS 銀河」の運行を開始した。10月16日にはJR九州が昼行観光列車「36ぷらす3」を運行開始予定だ。

 「WEST EXPRESS 銀河」は5月運行開始予定が9月に延期され、「36ぷらす3」は今秋からと予告した通りの運行開始となった。どちらも新型コロナウイルス禍でのデビューとなったけれど、予約は好調の様子だ。

「WEST EXPRESS 銀河」(出典:JR西日本「JRおでかけネット」

 その理由は「お手頃価格のクルーズトレイン」という企画趣旨にある。観光列車群の中では高めだけど、高級クルーズトレインより格段に安い。どちらも新しい魅力を提案しているから格上、格下感はなく、新しい列車として受け止められたようだ。

 この2つの列車のコンセプトと価格帯が、今後の観光列車ビジネスに変化を与えそうだ。

「36ぷらす3」のイメージ(出典:JR九州報道資料)

新時代の夜行列車「WEST EXPRESS 銀河」

 JR西日本が運行する「WEST EXPRESS 銀河」は、京阪神〜山陰間に設定された夜行特急列車だ。世界的観光地の京都と、女性の人気が高い出雲大社を結ぶ。観光目的の列車としては最強の組み合わせだ。東京〜出雲市間の夜行特急「サンライズ出雲」も人気が高く、近畿圏発の夜行列車も需要は多かったはず。しかし夜行列車廃止施策の影響で1994年に寝台急行「だいせん」が廃止されて以来、ベッド付きの列車は26年間も空白となっていた。

 「WEST EXPRESS 銀河」を「銀河」と略したいけれど、岩手県で「SL銀河」が走っている。ブルートレインブーム時代には東京〜大阪間の寝台急行「銀河」もあった。私の世代にとってはこちらが「銀河」だという意識も強い。「WEST EXPRESS 銀河」の列車名も、かつての夜行急行のイメージを継承したと思われる。

 「WEST EXPRESS 銀河」の下り列車は京都駅を午後9時15分に発車し、新大阪・大阪・三ノ宮・神戸・西明石・姫路までが夜の区間、翌朝は生山・米子・安来・松江・玉造温泉・宍道に停車して、出雲市到着は午前9時31分。夜遅く、朝のんびりという設定だ。一方、上り列車の出発は早い。出雲市を午後4時ちょうどに出発し、宍道・玉造温泉・松江・安来・米子・根雨・備中高梁までが夜の区間、翌朝は神戸・三ノ宮に停車して大阪到着が午前6時12分だ。これは平日の運行日も設定されているためだろう。通勤混雑時間帯直前に到着し、京都まで行かない。乗客にとって大阪駅到着後に出勤できるという利点がある。

「WEST EXPRESS 銀河」運行ルート(夜行版、出典:JR西日本「JRおでかけネット」

 運行日は週に2往復が設定された。9〜11月は上記の山陰方面で、下りが月曜と金曜、上りは水曜と土曜となっている。12月以降は山陽本線の大阪〜下関間を運行し、停車駅と時刻は未発表。19年11月に発表された運行概要では、春夏に山陰方面の夜行、秋冬に山陽方面の昼行となっていた。私は山陽方面も夜行の方がいいと思うけれども、線路保守時間の確保や貨物列車との兼ね合いかもしれない。今後に期待したい。

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