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パナソニックのカメラ撤退はあり得るか小寺信良のIT大作戦(1/4 ページ)

» 2021年05月27日 09時19分 公開
[小寺信良ITmedia]

 経済誌を中心にパナソニックのコンシューマーカメラ事業に対する風当たりが強まっている。5月10日に発表があった、2020年度(2021年3月期)の連結業績発表を受けてのことだろう。巣ごもり需要を受けての白物家電好調とは裏腹に、いわゆる黒物であるカメラとテレビの苦戦が伝えられたところである。

 確かにカメラは“黒物”の中でも、高度な精密機器の本体部分と、昔ながらのアナログ技術の塊であるレンズ部の複合商品であり、メカ部も半導体部もあるという、設計・製造の難易度が高い機器だ。加えてブームに左右されやすい市場であり、波が来たらすぐ乗らないと置いて行かれる、厳しい分野である。

 2020年度はコロナ禍で部材調達も工場の稼働も難しく、生産や販売を絞らなければならなかった事情もあり、売上として苦戦を強いられたのは事実だろう。しかしLUMIXの名前は2001年からもう20年も続いており、エントリーコンパクトからハイエンドミラーレスに至るまでを貫く、強いブランドだ。手放すには惜しい。

 今後LUMIXはどこへ行くのか。過去から現在に至るまでの流れを追いつつ、その方向性を占ってみよう。

デジタル一眼のハードルを下げた、マイクロフォーサーズ

 パナソニックがデジカメの新ブランドとしてLUMIXを登場させたのが2001年10月で、最初の製品はライカレンズ搭載の「DMC-F7」と「DMC-LC5」だった。特にF7は今見ても斬新な横長のボティーで、デジタルカメラの夜明けにふさわしいルックスを備えていた。

photo ライカレンズ搭載の「F7」

 当時デジタルカメラ市場は、一眼レフがプロ向けの高根の花で、レンズ交換可能なミラーレス機はまだ誕生していない。もちろんスマートフォンも誕生しておらず、主流はコンパクト機だった。レンズブランドを持たないパナソニックは早くからライカと提携し、多くのモデルへ搭載していった。ソニーがツァイスと組んであらゆるカメラに搭載していったのと同じ構図である。

 しかし多くの人がLUMIXブランドを強く意識し始めたのは、「ネオ一眼」と呼ばれたレンズ一体型の大型モデル「FZシリーズ」の登場からだろう。光学手ブレ補正に12倍という高倍率ズームレンズを搭載し、コンパクト機では物足りない層にヒットした。最終的には光学60倍、超解像ズームまで含めると120倍までズームできたシリーズだった。

 レンズ交換可能な一眼カメラへの参入は、2008年である。初号機の「DMC-G1」は、世界で初めてミラーレス構造を搭載したカメラだった。また、マイクロフォーサーズ規格としても第1号機であった。

 G1登場以前のデジタル一眼は、全てミラー有りの「一眼レフ」である。当然、フィルム時代に一眼レフカメラを作っていたカメラ専業メーカーの独壇場であった。ソニーは2006年にミノルタの事業を継承することで、先に参入を果たしている。同じ土俵では戦えないとして、専業メーカーのオリンパスと組み、オリンパスが提唱してきたフォーサーズシステムを改良、大幅に小型化することに成功した。

 フォーサーズシステムが「一眼レフ」の規格であったのに対し、マイクロフォーサーズはミラーレス設計を前提としており、フランジバックが短い。フランジバックとは、レンズマウント面から撮像素子までの距離のことだ。当然レンズも専用設計となる。

 だがフランジバックが長い旧来のレンズでも、レンズとボディーの間にマウントアダプターを入れ込んで使用できた。なぜならフランジバックが短ければ、途中を継ぎ足しても余裕があるからである。逆にフランジバックの長いカメラには、フランジバックの短いレンズは付けられない。長さは、足すことはできてもを引くことはできないからである。

 このシステムのおかげで、マイクロフォーサーズのカメラはレンズラインアップがそろう前でも、マウントアダプターを介すことで最初から相当数のレンズが使えた。このメリットは、今もなお健在である。

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