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コロナ禍「日本のIT敗戦」の深層を考える(1/3 ページ)

» 2021年05月26日 10時14分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

 コロナ禍では感染防止・状況改善のために、さまざまな施策が行われてきた。その中にはITが絡むものも多数ある。リモートワークなど、ITがあって実現できたことも少なくない。

 だが、こと国の施策でいうなら、ITを使ったものは大きな課題を抱え、うまく行かなかったものも多い。典型例が接触確認アプリである「COCOA」だ。そして、ワクチン予約サイトに関わる事象も、「トラブルを抱えているもの」に数えていいだろうと思う。

 報道・記事執筆という側面からとはいえ、ITに関わるものの一人としては残念に思うことばかりだ。

 一方、こうした事象はなぜ起きるのか? いくつかヒアリングした上で考えると、「少し視点を変えた方がいい」とも思った。

 今回は、コロナ対策も含め、日本の行政によるIT施策に問題が起きやすい理由は何なのか、その理由を改めて考えてみた。

この記事について

この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2021年5月24日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。さらにコンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もスタート。

COCOAの課題の本質はどこにあったのか

 まずCOCOAから行こう。

 アプリの欠陥によって長期的に実効性がない状態が続いたことについては、推進する立場で行動してきた人間の一人としては本当に残念だし、無力感を感じた。

photo COCOAアプリ

 Bluetoothを使った接触確認アプリの導入については初期から取材をしており、いくつか記事も書いた。その立場から見れば、「なぜこうなったのか」について、いろいろ考えるところがある。

 直接的な原因については、いくつかの報道にある通りだ。アプリの検証を行う体制に大きな問題があり、修正が必要な課題を反映することができなかったからだ。

 「動作チェック体制が甘いのではないか」という懸念はアプリの公開直前からあり、そうした意見をもっと検証しておけば指摘できたのではないか、という反省はある。

 一方で、問題を「アプリの受発注」と定めると、課題が矮小化されてしまうのではないか、と筆者は考えている。

 筆者が考える最大の課題は「早期の導入だけを目的としてしまい、運用についての視点が欠けていた」ということだ。

 まず、初期に導入方法や告知の解説が弱かった。これは主に、運営主体である厚生労働省が「広く使われるアプリの運用と告知」に、不慣れであったことが原因である。

 アプリの導入と告知には、アプリやサービスを提供するものなら皆が知る「鉄則」があるが、厚労省はその鉄則を守っていなかった。

 次に、アプリ運用の基礎となる「HER-SYS」(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)との連携を軸とした保健所での運用がまったくこなれていなかったことだ。

 COCOAはアプリに陽性登録をしてもらい、その量が増えることで実効性を高めていく。そして、通知があった人の情報を積み重ねていくことで、陽性判定の迅速化や行動傾向の把握などにつながることが期待されていた。

 その軸になるのは陽性者データベースである「HER-SYS」であり、アプリ登録も連動することでスムーズにする、という立て付けだった。それゆえ、アプリ開発の事業者選定や予算付けも、HER-SYSと連携を前提に行われた。

 だが、HER-SYSの開発と運用は難航した。

 HER-SYSが運用を開始したのは2020年5月末だが、不具合が多く、医師や保健所からは「入力が負担である」「誤入力しやすい」などと評判が悪かった。そのため、都道府県別に集計される感染者数の情報も、HER-SYSの情報を使ったものに切り替わったのは「2021年4月」のことだった。

 そんな状況もあり、保健所や医療機関では、「COCOAで通知が出た」という連絡をもらうことを歓迎していなかった。とにかく大変な状況であるのに、そこにさらに仕事が追加されることになったからだ。厚労省から「COCOAでの通知者には検査などを行うように」という通達が出たものの、労力を軽減する施策があったわけではない、と認識している。

 すなわち、本当に必要な「現場を楽にする」という観点が不足していたため、アプリが本来の価値を発揮できず、さらにそれが不具合発覚を遅らせたのではないか……。

 これが、COCOAの不具合発覚後に取材やヒアリングをした上での、筆者の一つの結論である。

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