ソニーの純利益が1兆円を突破し、過去最高益を記録したというニュースは、コロナ禍の閉塞感が続く大型連休前、前向きな話題となった。移動制限や出社抑制など、さまざまなコスト削減要因があったとはいえ、前期比2倍以上の1兆1718億円という数字はインパクトがある。
ソニーグループ全体の利益を押し上げたのは、言うまでもなくゲーム事業と金融事業だった。巣ごもり需要でゲームのプレイ時間が増えたこと、プレイステーション 5(PS5)の世界的なヒットといったプラス要因もあるが、それ以前に吉田憲一郎氏が社長兼CEOに就任してから進めてきた、D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)戦略が成功した結果でもある。金融に関してもD2C戦略が当たったといえるだろう。
D2Cはソニーグループ全体の戦略骨子になるものだが、とりわけゲーム部門では加入型サービス「PlayStation Plus」の伸びが顕著だった。今後、中期的にはPS5からの収益も伸びることが期待できる。
PS5については、消費者視点だと「いつになったら普通に買えるのだ」という、身近な話題に目線がいくかもしれない。
決算では、PS5の生産台数が需要に追い付かず、慢性的な品不足に陥っている状況について「半導体不足だけが原因ではなく、すぐに増産できるわけではない」とくぎを刺す場面もあった。もちろん、半導体が調達できたからといって最終製品の組み立てを一気に何倍も引き上げることは難しいだろう。しかしそれ以前、半導体不足の解消にはそもそも時間がかかる。
PS5に使われているAMD製半導体チップは、台湾TSMCの7ナノメートルプロセスを用いた生産設備で作られている。この生産プロセスは、世界中のさまざまなテクノロジー製品に使われており、ソニーだけが欲しがっているわけではないから、当然奪い合いになる。
将来のコスト抑制も考えると、PS5のチップを再デザインして5ナノメートル、あるいはそれ以上に進んだプロセスに移植して生産することも視野に入れているはずだが、その場合もアップルやクアルコムなどのスマホ勢をはじめ、最先端の半導体を必要とするあらゆる企業と、限られた生産キャパシティーを奪い合うことになる。
半導体チップは今日発注して来月に納品されるようなものではなく、来期、あるいは来年の生産キャパシティーを予約しておいて、そこで生産するといったスケジュールで動く製品だけに、なおさら管理は難しい。
加えて、ご存じの方も多いだろうが、最先端の論理回路系半導体チップの生産はTSMCの独壇場だ。何とか韓国サムスンが食らい付いているものの、TSMCの生産キャパシティーをどこまで確保できるかが目の前の経営課題になるほど、世界のハイテク企業は台湾の一企業に頼らざるを得ない状況なのだ。
この状況をさらに複雑にしているのが、米中関係の悪化。トランプ政権時代に発動した中国への制裁的な輸出制限はもちろん、ファーウェイに対する禁輸措置、取引制限は苛烈を極め、TSMCに先端チップを発注していた彼らはまともに製品開発を行えなくなってしまった。
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