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傘下のVMwareが独立 DELLの狙いとは

» 2021年04月20日 11時36分 公開
[新野淳一ITmedia]

この記事は新野淳一氏のブログ「Publickey」に掲載された「VMwareが独立、デル傘下からスピンオフ。その理由は、デルが借金を早く返したいから」(2021年4月16日掲載)を、ITmedia NEWS編集部で一部編集し、転載したものです。

 Dell Technologies(以下デル)とVMwareは、VMwareをデル傘下からスピンオフし、独立した公開会社にすることを発表しました。

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 デルは2015年にストレージ大手のEMCを約8兆円で買収しました。EMC傘下にはVMware、Pivotal、RSAなどの企業が含まれており、自動的にこれらの企業もデルの傘下となっていました。

 今回の発表は、このデル傘下だったVMwareをスピンオフし、独立した公開企業にする、というものです。

 このスピンオフが完了すると、VMwareはVMwareの全株主に対して、115億ドルから120億ドルの特別現金配当を行います。デルはVMwareの株の約80%を保有しているため、このうちの80%、すなわち約93億ドルから97億ドル(1ドル110円換算でおおむね1兆230億円から1兆670億円)程度の現金を得ることになると発表されています。

 スピンオフ完了後もVMwareの取締役陣に変化はなく、マイケル・デル氏も引き続きVMware会長にとどまる予定。

 デルの会長兼CEOであるマイケル・デル氏は、スピンオフについて次のようにコメントしています。

By spinning off VMware, we expect to drive additional growth opportunities for Dell Technologies as well as VMware, and unlock significant value for stakeholders.

(VMwareのスピンオフによって、デルおよびVMwareはさらなる成長機会を得るとともに、ステークホルダーのみなさまにも大きな価値をもたらすだろう)

デルは早く借金を返し、巨大なクラウドベンダーと戦いたいはずだ

 なぜデル(とVMware)は、VMwareのスピンオフを決めたのでしょうか?

 デルがEMCを買収し、VMwareがデル傘下になった際に最も心配されていたことの1つが、VMwareがサーバベンダーとしてのデルを優遇するのではないか、ということでした。

 いうまでもなくVMwareは当時からサーバ仮想化ソフトウェアの最大手でした。そのVMwareがデルを優遇し、デルの競合であるHPEやレノボや富士通などとのビジネスに差をつけて、例えばサポートの優先度を下げる、製品提供価格を上げる、といったことをすれば、それまで築いてきた独立したソフトウェアベンダーとしてのVMwareの価値が毀損してしまうのではないか、と思われていたのです。

 しかし、実際にはそのようなことは(筆者が知りうる限り)起こりませんでした。ですから、VMwareの独立性を高めるためにVMwareをスピンオフする、という理由はあまり説得力がないように見えます。

 ではなにがVMwareのスピンオフの理由なのか。おそらく、その答えはデルの発表の中にあるこの一文が示していると思われます。以下は今回のデルの発表からの引用です。

Dell Technologies would receive approximately $9.3 - $9.7 billion and intends to use the net proceeds to pay down debt, positioning the company well for Investment Grade ratings.

(デルは約93億ドルから97億ドルを受け取り、この収入を負債の返済に充て、同社を投資適格に位置付けたいと考えています)

 デルは早く借金を返したいのです。

 デルは2013年に、より迅速な経営判断を実行できるようにと経営陣が全株を買い取るMBOを実行して非公開企業となり、2015年に非公開企業のままEMCを買収しました。

 2015年にデルがEMCを買収したときに同社は約8兆円もの資金を必要とし、大きな借金を抱えることになりました。今回のスピンオフで得たお金は、その借金の返済に充てられるのです。

 2018年にデルは再上場を果たします。これも同社が大きな借金を早く返すために市場から資金調達をするために再上場したのだとの見方があります。

 これまでVMwareはデル傘下にありつつも、前述のように独立したソフトウェアベンダとしてうまく振る舞いつつ、例えばデル傘下の企業としてVxRailやVxRackなどのハードウェアとソフトウェアを統合したハイパーコンバージド製品提供などに協力してきました。

 スピンオフ後もVMware会長はマイケル・デル氏が変わらず勤め、取締役会も変わらず、デルとVMwareは引き続き協業を続けることが発表されていますから、デルとしてはこれまでとほぼ同様の協力関係をVMwareと維持できると見ているでしょう。

 そのうえで大きな現金を得られるスピンオフは、早く借金を返す手段として適切なものに見えたはずです。

 いまデルが市場で戦っているのは他のサーバベンダーではなく、AWSやGoogle、マイクロソフトなどの巨大なクラウドベンダーです。「ハイパースケーラー」と呼ばれる彼らと戦うには大きな資金が必要であり、大きな借金とその利払いはそれを阻害します(投資適格のレーティングが低いと借金の金利も高いでしょう)。

 デルはそのためにVMwareのスピンオフを選んだのだと考えられます。

垂直統合の時代にデルはどう戦うのか

 しかし現在、IT業界では垂直統合の時代が始まろうとしています。AWSやGoogleといったクラウドベンダーは自社でクラウド基盤ソフトウェアやその上で稼働するさまざまなサービスのためのソフトウェアを開発するだけでなく、データセンターはもとより、プロセッサやサーバといったハードウェアも自社で開発し、それらを垂直統合することで、低コスト、高性能、多機能といった他社との差別化要因を実現しようとしているのです。

 これらに対抗するには、デル自身も垂直統合モデルによって、より優れた製品とサービスを提供するべきである、ということはデル自身も分かっているはずです。だとすればVMwareのスピンオフはそれに逆行します。

 それでもデルがVMwareをスピンオフさせることを決めた背景には、資本関係抜きでもVMwareとの関係を維持できるという見通しのうえで、借金返済を優先事項とするとの判断があったのではないでしょうか。

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