アニメや漫画、ドラマの舞台を旅する「聖地巡礼」。今や地方創生の一つとして定着している。ただ、実際にコンテンツの舞台として誘致することは現実的ではなく、地方自治体側としては、運良く自分たちの住んでいる場所が作品の舞台となるのを待つしかない実情もある。
そんな中、自ら元となるコンテンツを制作し、アニメ化となる原案を作る――そんな地方創生戦略のもとに動いていた作品がある。漫画『やくならマグカップも』(以下、『やくも』)だ。
『やくも』は陶芸に打ち込む女子高生を描いた作品で、「美濃焼」で知られる岐阜県多治見市を舞台にしている。2010年に同市で始まったプロジェクトで、フリーペーパーで漫画を連載しているほか、インターネット上でも無料公開した。さらに4月2日にテレビアニメも放送され、多治見市でも多様なコラボイベントの展開を予定している。まさに、『やくも』は地域住民がコンテンツを制作し、見事アニメ化を成し遂げた希有(けう)な例といえる。
その仕掛け人が、岐阜県多治見市に本社を置くIT企業「プラネット」の小池和人会長だ。「プラネット」の本業は歯科用システムなどを手掛けている一方、今回小池さんは漫画『やくも』を企画し、地方創生ビジネスもプロデュースした。
小池さんによると、その背景には東京ディズニーランドの生みの親との切っても切り離せない関係があるという。東京ディズニーランドと『やくも』はどうつながっているのか。なぜ、コンテンツで地方創生を志そうと思ったのか。小池さんが師事した東京ディズニーランドの生みの親、故・堀貞一郎氏との逸話や、『やくも』の誕生秘話を取材で明かした。
――東京ディズニーランドの生みの親である故・堀貞一郎さんの主催するサロンに7年間欠かさず通い、このつながりがきっかけで『やくも』の原案となる堀さん原作の多治見市を舞台にした物語『多治見ものがたり』が09年に誕生しました。さらに堀さんから「孫を頼む」と紹介され、そこからフリーコミック版『やくも』の誕生につながったと前編でうかがいました。まさに今は亡き師匠のお孫さんとの共同作業が始まったのですね。
多治見市舞台の漫画作品を作っていこうと考えたのですが、多治見市にいる人を中心に制作していこうとは思いませんでした。なぜかというと、私もそうですが、地元の人は、外の人に魅力的に映るものでも「それが当たり前のもの」だと思っているので、客観的な強みが分からないんですよ。だから多治見出身ではない、堀先生のお孫さんを中心として動いてもらおうと思いました。
この堀先生のお孫さんが、秋葉原にいるような「オタク」なんですよ(笑)。私はこれが面白いと思って、「君の友達を集めて」と指示したんです。それで4人の仲間を集めたのですが、全員が全員、リュックサックを背負ったオタクだった(笑)。『やくも』のプロジェクトはこの4人から始まりました。
――堀さんが書かれた『多治見ものがたり』は多治見市の史料に基づく格調高いものでしたが、『やくも』は「日常系」ともいわれる、4人の女子高生によるユルい高校生活を描いた作品です。男性性も極力排除し、家族以外の男性キャラはほとんど登場しない現代的な作品に仕上がっています。
日本のアニメ作品が世界に通用していることは私も知っていましたので、まず集まった4人で、なぜ日本の漫画やアニメが世界に通用するのか議論するところから始めました。そして4人で設定を作り始めました。『やくならマグカップも』というタイトルも、女子高生の陶芸部という設定も、主役の名前も、彼らが作ったんです。
この4人の中に、Webコミック配信サイト「マンガクロス」(秋田書店)にて連載している『やくならマグカップも こみからいず!』の作画を担当する梶原おさむさんがいました。フリーコミック版も彼が担当しています。他の3人はこのあと別々の道をいくのですが、当時バイトを掛け持ちしながら漫画家志望だった梶原さんだけは最後まで残ってくれて、フリーペーパーとして頒布する漫画作品として連載を始めました。
――今は亡き師のお孫さんのつながりで、原作漫画を担当している梶原おさむさんと出会ったわけですね。
原作の設定などはできたものの、当初の4人が梶原さん1人だけになってしまいました。当社はAppleのソフトウェア開発を手掛けているのですが、社内にデザイナーもいたので、一緒にチームを作ることにしました。それが、「多治見くるくるチーム」です。
また、梶原さんもアルバイト生活を続けていたので、「うちの社員にするから一緒に多治見に来ないか」と誘ったんですよ。それで、梶原さんもうちの社員にして、社内で『やくも』のチームを作ったわけですね。
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