リテール大革命

フードデリバリーはどう変わる? 米国から先読みする“付加価値”の行方石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(1/2 ページ)

» 2021年03月04日 07時00分 公開
[石角友愛ITmedia]

新連載:石角友愛とめぐる、米国リテール最前線

小売業界に、デジタル・トランスフォーメーションの波が訪れている。本連載では、シリコンバレー在住の石角友愛(パロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナー)が、米国のリテール業界の最前線の紹介を通し、時代の変化を先読みする。

 新型コロナウイルスの影響により、フードデリバリーの市場が大きく広がりました。

 日本ではウーバーイーツや出前館が人気ですが、米国ではドアダッシュというベンチャー企業がフードデリバリーアプリのシェアの約50%を占めています。ドアダッシュは2020年に一気に増えたデリバリー需要の勢いを追い風にIPOを果たしました。21年2月に行われたアメフトのチャンピオンを決めるスーパーボウルでも、約500万ドル(およそ5億3100万円)もの広告費用を投じたドアダッシュのテレビCMが流れていたことが話題になりました。

 そんなドアダッシュが21年2月に、小さいロボットスタートアップを買収しました。14年に創業し、シリコンバレーに本社を置くチョウボティクス(Chowbotics)という企業です。同社はサラダを自動で作るロボット(見た目は自販機のようなイメージ)を開発しています。米国でもそこまで大きく報道はされませんでしたが、フードデリバリー事業者の行方を考えさせられるニュースでした。

photo ドアダッシュの配達員(画像提供:ゲッティイメージズ)

 本記事では、ドアダッシュを中心に米国でのフードデリバリー事業者の戦略や現状を紹介し、フードデリバリー業界がアフターコロナの社会でどのように変化をしていくかを予測します。

「デリバリー以外の付加価値」を

 実は、宅配アプリを好んで使うレストランや小売店は多くありません。理由は(1)15〜30%ほどの高い手数料をとられること、(2)消費者にとってアプリ上のお店の一つにすぎず、認知やロイヤリティーの向上につながりにくいこと、(3)データの統合が難しいことなどです。

 コロナが収束した後、ドアダッシュのようなデリバリーアプリの会社がどのように成長し続けるのか、というのは投資家の懸念材料の一つです。そこで、デリバリー以外にもレストランや小売店を引き付ける“何か”が必要なのです。

 チョウボティクスの買収を発表した際、ドアダッシュは「チョウボティクスのチームに参加してもらうことで、われわれは新たなユースケース(システムの使用例)や顧客の開拓を行えると同時に、加盟店の成長を支援する新しいサービスを提供することができるようになると考えています」とコメントしました。今後レストランに向けた周辺事業への多角展開も考えられるということです。

 また、最近よく耳にするお店を持たないレストラン=ゴーストキッチン(店舗は持たずデリバリーアプリを通して集客、販売を行う。キッチン設備のみの場所で調理し、デリバリーアプリで宅配する)が定着し始めていることもあり、ゴーストキッチンの中にチョウボティクスのようなロボットを置けば、作業の効率化も考えられます。

 通常のレストランでは30人ほどのスタッフが必要なのに比べ、ゴーストキッチン型レストランでは3〜5人で運営ができるといわれており、機械や設備を充実させて人件費を下げるためにもフードロボットは必要になるかもしれません。特に、配達やテークアウトからの売り上げが大きい、または今後大きくなると予想されるレストランは、今後ゴーストキッチンに特化した方が良いという傾向が強まっています。

 例えば、ウーバーの創業者でもあるトラビス・カラニック氏が現在取り組んでいるスタートアップに、「クラウドキッチンズ」というものがあります。配達専用のレストラン経営者のために共同キッチンを貸し出すという、いわば、キッチンのシェアリングエコノミービジネスです。ドアダッシュもカリフォルニア州でクラウドキッチンを運営しています。

photo ドアダッシュが運営するクラウドキッチン(画像提供:ゲッティイメージズ)
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