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“自前主義”で固有の世界観を創出 有料会員を増やし続けるNewsPicksの「垂直統合型ブランド戦略」とはNewsPicks Studios金泉俊輔CEOに聞く【前編】(1/4 ページ)

» 2021年03月03日 08時00分 公開

 ビジネスパーソンを中心に500万人以上の会員を擁する経済ニュースメディア「NewsPicks」。他メディアのニュースを選別して配信する「キュレーション」のほか、独自で経済ニュースや経済番組を制作しインターネットで配信している。制作したコンテンツはヤフーやグーグルをはじめとした外部ニュースサイトには配信しない方針を取っていて、独自のビジネスモデルを生み出している。

東証マザーズ上場のユーザベース社は六本木にオフィスを構えている

 固有の展開により経済界を中心にファンを増やしていて、有料会員数も17.9万人(2020年12月末時点)を擁している。独特のコミュニティーを形成しているのも特徴だ。実業家のホリエモンこと堀江貴文氏やDMM.comグループの亀山敬司会長、ジャーナリストの田原総一朗氏などの著名人も、「プロピッカー」と呼ばれるコメンテーターとして参画している。

 同サイトは13年にユーザベース社(16年に東証マザーズに上場)が立ち上げ、右肩上がりで有料会員を増やし続けてきた。独自のビジネスモデルやブランド戦略はいかにして成功したのか。NewsPicksの執行役員を務め、動画制作を手掛ける電通との合弁グループ会社「NewsPicks Studios」(東京都港区)のCEOでもある金泉俊輔氏にインタビューした。メディアの最前線の経営戦略や組織論について、前後編でお届けする。

金泉俊輔(かないずみ・しゅんすけ)「NewsPicks Studios」CEO、大学在学中から雜誌ライターとして活動後、出版社に入社。取次・書店営業、女性情報誌・女性ファッション誌編集を経て、週刊誌編集へ。『週刊SPA!』編集長、ウェブ版『日刊SPA!』創刊編集長などを務める。2018年3月、株式会社ニューズピックスに移籍し、NewsPicks編集長。19年5月よりプレミアム事業担当執行役員に就任。21年1月より「NewsPicks Studios」代表取締役CEO。1972年生まれ

広告収入とサブスク収入の比率は半々

――金泉さんは1月、ユーザベースグループで動画制作を手掛けるNewsPicks StudiosのCEOに就任しました。今後の展望をどのように考えていますか?

 NewsPicks Studiosは創業2年の会社ですが、それ以前はNewsPicks本体の番組や動画を制作するチームでした。

 現在「看板」といえる番組は、メディアアーティストの落合陽一さんが出演する「WEEKLY OCHIAI(ウィークリー落合)」や、起業家や経済ニュースの当事者をゲストに招き、最新の経済問題を分かりやすく解説する「The UPDATE!(ジ・アップデート)」、堀江貴文さんが経済問題を斬る「HORIE ONE(ホリエワン)」、業界の裏話を明かす経済トークバラエティ番組「OFFRECO.(オフレコ)」などがあります。この主軸となっている4番組を中心にコンテンツを強化し、規模を拡大する方向で考えています。

 同時に、これらの人気番組以外にも、新しい動画コンテンツや番組を作る試みをしています。例えば、NewsPicks編集部の取材班が最先端のイシューに迫る「NewsPicks NOW!(ナウ)」というニュース番組があるのですが、コンセプトにあまり縛りを設けず、テキストの記事と連動させるなど特集自体をより立体的に見せられるよう工夫しています。

 昨年秋には「脱ハンコ」の流れの中で山梨県のハンコ産業を守る立場にある方々を直撃して地方の実情を取り上げたり、脳のメカニズムを解説する番組を制作したりと1回10分程度の尺ではありますが、大手メディアにはなかった番組の在り方を探っています。こうした番組でも、今期以降さらに新しい動画表現を追求して、コンテンツのフォーマットを模索していきたいと考えています。

――「NOW!」は確かに経済コンテンツの見せ方を工夫していて新しさを感じます。海外のテレビ報道やドキュメンタリーにも影響を受けていると感じました。また、記者が自ら顔を出してレポートする手法にも貴社の姿勢が表れていますね。同じ経済問題でも、異なる番組で多様な切り口を提示するのがNewsPicksの特徴だと思います。

 「HORIE ONE」のように、著名人をゲストに招いて、その人のトークを中心に番組を構成するものや、NewsPicks編集部が中心になって構成する報道番組があります。一方で、企業とタイアップしたスポンサードの番組もあります。例えば先述の「OFFRECO.」などでは「OFFRECO. GO」というコーナーで企業の訪問特集をしていて、これは企業とのタイアップ企画になります。

――番組によってそれぞれの収益モデルがあるわけですね。民放のような広告収益モデルがあるのと同時に、(有料会員が月会費を払う)サブスクリプションでの収益構造があるのも、テレビ局にはないNewsPicksの特徴だと思います。

 無料会員がいま560万人(20年9月末時点)いて、この数はコミュニティーの形成と共に、広告の収益モデルにも効いていきます。広告はブランドデザインチームが専門となって手掛けています。一方、(サブスクを収益とした)有料会員の数も増え続けていて、20年12月末時点で17.9万人です。

――広告収入と、サブスクによる収入との比率はどのようになっていますか。

 大体半々なので、1対1と言っていいと思います。最初からこれだけ有料会員がいたわけではありませんから、サブスクライバーの数が増えて今の割合になった感じです。

金泉さんが司会を務める「HORIE ONE(ホリエワン)」
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