電気やガスの問合せ窓口が「電話だけ」「混雑でつながらない」――レガシーな仕組みを1年で刷新、チャットやAIまで実装した方法顧客サポートのDX

コロナ禍でオンラインの顧客対応が注目を集める。電気やガスを扱う東電EPは顧客相談窓口を「電話対応のみ」としていたため、混雑やコストが課題となっていた。この状態を1年で刷新し、チャットやAIまで実装した。スピーディーな変革はなぜ実現したのか

» 2021年02月19日 07時00分 公開
[高木理紗ITmedia]

 デジタルトランスフォーメーション(DX)を目指す企業にとって、最初に突き当たる疑問の一つは「どこから取り組むのが自社にとって適切か」ではないだろうか。

 主要なシステムから変革を起こそうと、データ基盤や基幹システムの刷新に取り組む企業の例はこれまでも見られた。一方、最近重要性を増しているのが、Webサイトやチャットといったデジタルチャネルを介した顧客体験(CX:Customer Experience)の分野だ。

 背景にはコロナ禍による「消費行動のオンライン移行」がある。顧客がオンラインでの消費体験で得る満足度が、市場を左右するようになったためだ。

 CXに特化したソリューションを扱うZendeskの調査によれば「一度カスタマーサポートでネガティブな体験をしたら、競合他社に乗り換える」と回答した消費者の割合は、全世界で50%だったが、日本は61%に上ったという。

 そんな中、電気やガスの分野で顧客サポートのDXに取り組むのが、東京電力エナジーパートナー(以下、東電EP)だ。同社は、2016年に電力の小売りが全面自由化されたことを機に、東京電力グループ傘下で電気、ガスを扱う小売事業者として設立された。現在は、音声認識を使った自動受付やチャットbotなど、多様な顧客サポート窓口を運用する。

 ただし、現在の仕組みを構築する以前、同社はコールセンターしか顧客サポート窓口を持っておらず、その機能にも課題があったという。同社はいかにして顧客サポートを刷新したのか。本稿は、Zendeskが2021年2月18日に開催したセミナー「ニューノーマル時代の顧客エンゲージメントとは? - CX Trends 2021 -」の内容を抜粋してお届けする。

「いつも電話がつながらない」「受付が複雑化」 課題だらけだった電話窓口

 東電EPの飯塚孝高氏(DX推進室)は、刷新前の顧客サポートについて「常に(コールセンターの)回線が混雑し、電話がつながらないこともしばしばだった」と話す。

 電気やガスの新たな料金プランを設けたため、同社への問い合わせ内容は複雑化した。しかし当時、顧客サポートの電話システムは「レガシーなシステムを使っていたため、先進的なシステムと連携できなかった」(飯塚氏)という。現場の負担は高く「オペレーションコストの大部分をコールセンターが占めていた」と、同氏は話す。

 そんな同社が課題解決に乗り出したのは、2019年7月のことだ。全社的なDXを目指して業務変革の推進チームを立ち上げた。飯塚氏を含めた3人体制のチームは、当時いわゆる“コストセンター”だったコールセンターを含む顧客サポートの刷新に着手した。目指す姿は、顧客がセルフサービスで疑問を解決でき、必要ならオンラインを含むオムニ(複数)チャネルで顧客サポートの担当オペレーターにコンタクトできる仕組みだったという。

チャットや電話、AIを備えた新システムを1年で構築 鍵になった「連携」

 東電EPは、約1年かけて新たな顧客サポートの仕組みを構築した。

 従来はオンプレミス環境で動いていたコールセンターを、クラウドベースのコールセンターシステム「Amazon Connect」に移行した他、Webサイトのチャットbotを活用することで、複数のチャネルにまたがった顧客サポートを実現した。現在は5つのコールセンターと2つのチャットセンターを運営し、業務の自動化も進める。

 多様な問い合わせ対応が可能な仕組みを、同社は1年でどう立ち上げたのか。

東電EPにおける顧客サポートシステムの概要(出典:東電EP)

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