AIの「安全な取引市場」を国内に作れるか 新たな流通基盤サービスが示す可能性は多様な販売形態へ“3つのポイント”にも注目(1/2 ページ)

産官学が連携し、データやAIの学習モデルを含む幅広いデータ取引を可能にするクラウド基盤が始動した。生成者からユーザー、間に入る事業者に至るサプライチェーンを網羅する形で、ニーズに合った契約や知財権の保護、セキュリティなどの仕組みをどう実現するのか。新たな基盤の中身からは、国内のデータ市場が抱える課題も見えてきた。

» 2021年02月18日 07時30分 公開
[大河原克行ITmedia]

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 データやAI学習モデルにひも付く権益を保護しつつ、国内で本格的に流通させる取り組みが始動した。産官学の連携団体であるAIデータ活用コンソーシアム(AIDC)は2021年2月10日、AIのニーズに対応したデータ取引基盤「AIDC Data Cloud」について記者発表会を開催した。

 AIDC Data Cloudは、円滑なデータ流通を実現するための契約モデルに基づき、多様なデータ流通を可能にするクラウド基盤だ。2021年2月10日にプレビュー版の提供を開始し、3月1日からサービスとして提供する。プレビュー版の提供開始時点で、約10社から問い合わせがあり、約5社とデータ登録の話が進んでいるという。AIDCは今後、多くの企業との話し合いが進み、登録が増えると想定している。

 AIDCは、産学官が連携した「オールジャパン」の枠組みとして、2019年3月に設立された一般社団法人だ。AIの研究活用において重要なデータの収集や契約などの検討、データ流通促進のための基盤構築、社会課題の解決につながるAI研究の促進を目的に、研究者や教育機関、事業者から円滑なデータ利活用に向けた知見を広く集約する。

AIDCは主な活動テーマに知的財産保護や契約、AI研究、データ収集や活用、データ基盤の整備を掲げ、AIDC Data Cloudはこのうちデータ基盤の整備に当たる(出典:AIDC)

 AIDC Data Cloud構築の背景には、日本におけるAIの研究と活用を一層加速させたい狙いがある。記者発表会を通して「データを効率的に流通させるプラットフォーム」としてAIDC Data Cloudが盛り込んだ内容は、具体的に何を可能にするのか。AIDCが国内のデータ市場の課題について抱く見解と併せて聞いた。

AI学習モデルの「責任」と「権利」をどう保護する? 複雑な国内市場の課題

 AIDC Data Cloudは、データ提供者が望む条件でデータを登録し、カタログとして一覧化されたデータを利用者が選択することで、利用契約の締結が可能になる仕組みだ。

 さまざまな商流や知的財産の保護規定、倫理、製造物責任、保証、来歴といった要素を考慮しつつ、データ取引サービスや契約モデルへの対応、さまざまな種類やサイズのデータに対応したファイルのアップロード、ダウンロードを可能にする。

 また、Web APIに対応し、データの提供および取得を容易にする。オープンデータのワンタイム利用やレベニューシェアなど、さまざまなデータ取引形態に対応した仕組みを構築できる。

データの生成者からエンドユーザーまでを含むサプライチェーンには、今後それぞれの責任や権利を保護する仕組みが不可欠になる(出典:AIDC)

 取引対象となるデータは、オリジナルデータやクレンジングデータ、アノテーションデータだ。想定する利用者は、AI製品をエンドユーザーが利用するまでのプロセスで登場するデータ生成者、データアノテーター、AI研究者、AI開発者、コンポーネントメーカー、最終製品メーカー、エンドユーザーなどだ。

 契約の形態としては、データ生成者がデータアノテーター、AI研究者、AI開発者にデータをライセンスする場合と、データアノテーターが、AI研究者、AI開発者に、データをライセンスする場合を想定している。

日本マイクロソフトの田丸 健三郎氏

 AIDCの副会長を務める日本マイクロソフトの田丸 健三郎氏(技術統括室 業務執行役員)は「国内におけるこれまでのデータの取引は、オープンデータが中心で、使い捨てといった用途が多かった。AIの学習データとして使用したり、学習済みモデルが流通してビジネスの中で価値を生んだりというような商流が考慮されていなかった。AIDC Data Cloudは、AIでの利用を前提としたデータ流通の課題を解決するものになる」と話す。

 また、AIDCの副会長を務める豊橋技術科学大学 IT活用教育センターの井佐原 均特任教授は「これからの社会は、AIを使ったデータの研究によって、オープンイノベーションやビジネスが進むことで社会課題の解決につながり、そこからまた新たなデータが生まれるというサイクルを回すことが重要だ。しかし、そのためにはさまざまな課題があり、特に日本には十分なデータがない。

豊橋技術科学大学 IT活用教育センターの井佐原 均特任教授

 例えば、脳性まひ患者や聴覚障がい者の話す言葉のデータを数多く集めれば、その言葉を認識し、テキスト化することで、多くの人と会話ができるようになり、そうした人たちをサポートしやすくなる。さまざまな社会課題を解決するためにも、データを活用できる基盤をつくることが大切だ」と、AIDC Data Cloudの構築の背景を語る。

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