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Suicaが駅の入場券になるサービス、今までなかった理由は? JR東に聞く

» 2021年01月21日 13時53分 公開
[吉川大貴ITmedia]

 JR東日本が3月13日に始める「タッチでエキナカ」。Suicaなどの交通系ICカードを駅の入場券として使えるようにするサービスで、送迎や通り抜け、トイレの利用をしやすくする。紙の入場券を買ったり、駅員に「トイレを使っていいですか」と聞いたりする手間が省けるが、ネット上などでは「どうして今までなかったのか」と疑問の声も出ている。Suicaの発売から約20年がたった今、ようやく実現した理由をJR東日本に聞いた。

photo サービスの利用イメージ

 タッチでエキナカでは、利用者がSuicaなどを使って同じ駅の改札を出入りすると、入場料をチャージ残高から自動で引き落とす。実施エリアは首都圏、新潟県内、仙台市内のうち、Suicaでの乗降に対応している駅。改札内の滞在は2時間まで認める。入場料は150円(税込、以下同)で、東京駅など一部の駅では140円。駅ナカ施設の利用を促進するための施策という。

「収入の仕分け」が障壁に

 JR東日本によれば、これまでタッチでエキナカのようなサービスがなかった理由は「従来の自動改札機のシステムでは入場券と乗車券の収入を仕分けられなかったこと」だという。

 JR東日本では会計規則上、乗車券からの収入を「運輸収入」、入場券からの収入を「旅客雑収入」と区別している。券売機はそれぞれの振り分けに対応しているため、従来は入場券の販売を券売機に限定していた。

 ユーザーから要望はあったというが、交通系ICカードを入場券として使えるようにするには、自動改札機のシステムに収入の種類を仕分けする機能を追加しなければならなかった。そのシステム改修を行っていた影響で、サービス提供までに時間がかかったとしている。

photo 対象の交通系ICカード

 複数の交通系ICカードに対応するシステムの構築に時間がかかったことも、サービスの提供が遅れた理由という。タッチでエキナカに対応する交通系ICカードは、Suicaに加え「PASMO」「Kitaca」「ICOCA」など計10種類。「モバイルPASMO」や「モバイルSuica」、「Apple Pay」向けSuicaも含める。

 この10種類のICカードは、2013年から全国での相互利用が可能になっている。提供元の鉄道会社はそれぞれ異なるが、どれか1枚を持っていれば、他のカードが対応するエリアでも改札を通れる。だがJR東日本によれば、今回はこの相互利用の取り決めが足かせとなり、サービスをすぐに提供できなかったという。

 「他社との足並みをそろえるため、どれか1つだけを入場券として使えるようにはできなかった。タッチでエキナカのようなサービスを求める声は以前からあったが、10種類全てのICカードに対応したシステムを構築する必要があり、時間がかかった」(JR東日本)

サービス開始当初はトラブルも想定

 一見すると便利なタッチでエキナカだが、JR東日本はいくつかのトラブルが発生する可能性を想定している。例えば、新幹線の改札機や小規模な駅に設置している簡易改札機では、サービス開始後も従来の入場券が必要だが、それを知らない利用者が混乱する可能性を見込んでいる。

 人身事故などのトラブルの際は、改札を通った後に乗車を諦め、短時間のうちに改札から出ようとする人が多くなる。この場合、従来は駅員が返金や入場の取り消しを行っていたが、今後はICカードをタッチして外に出ようとする人が増えることで、誤って入場料を引き落とす可能性もあるという。こうした際は、従来通り駅員が事情を聞き、返金や案内を行うとしている。

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