API提供でネット証券もコモディティ化 オンラインの陣取り合戦が始まる(1/2 ページ)

» 2020年08月14日 07時20分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 コロナ禍の株価乱高下により、ネット証券各社には新規口座開設者が殺到、売買高は高い水準となり、直近のネット証券各社の業績は好調だ。しかし長期的に見れば、この業界は売買手数料の無料化という大きなトレンドのさなかにある。

 そのトレンドを推し進める出来事が起きた。auカブコム証券(カブコム)は7月8日、国内の金融機関としては初めて投資信託の販売会社機能をAPIとして開放した。これにより、「通常、数億円から数十億円の投資が必要となる投資信託の販売会社機能をフルラインで構築しなくても、as a serviceとして外部から利用することで、多様なサービス提供者のスピーディな事業参入を容易にする」(auカブコム証券)ことができるようになる。

auカブコム証券は投信販売会社機能をサービスプラットフォーム化し、APIとして提供する

 しかし、これは証券業者にとっては諸刃の剣だ。日本資産運用基盤グループの大原啓一社長は、これにより「オンラインの陣取り合戦が始まった」と指摘する。既存の金融業にとどまらず、大手サービス業者が、新たに始まる金融仲介業に登録し、カブコムのAPIを使えば、自身の世界観で投信を販売できるようになるからだ。

無限に増えるライバル

 昨今、大手通信事業者やEC事業者は金融領域に進出を始めている。多くは、既存の証券会社を傘下に収めたり証券会社と合弁で事業を始めたりしているが、これには時間とコストがかかる。これがカブコムのAPIを使えば、低コストでスピーディに、自らのブランドを前面に出したままで金融サービスの提供が可能になる。

 ネット証券から見れば「ライバルが無限に増える。従来のビジネスモデルにとどめを刺してしまう」と大原氏は警鐘を鳴らす。第一種金融商品取引業者の登録もいらず、複雑なシステムの構築も不要とあっては参入は容易だ。「ネット証券という業態自体もコモディティ化してしまうだろう」(大原氏)

 しかも非金融事業者にとっては、金融サービスの提供はユーザーの囲い込みの側面も大きい。金融サービス自体で大きな利益を上げなくても、グループの経済圏にユーザーを取り込むことで総合的に利益を上げればいい。

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