新型コロナウイルス接触確認アプリは本当に感染者を減らすことができるのか(1/3 ページ)

» 2020年08月04日 08時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

 厚生労働省が6月19日にリリースした新型コロナウイルス接触確認アプリ(COVID-19 Contact-Confirming Application)、いわゆるCOCOAのリリースから約1カ月半が経過し、具体的な成果に加えて行動変容がどのような結果をもたらすのか、学術機関によるシミュレーションも出始めてきた。

 リリース当初、アプリやサービスの不具合、陽性登録者の少なさなど批判的な報道も目立ったが、当初より「およそ1カ月」とされた立ち上げ期間を経て、アプリやサービスの品質も安定し始めている。

 内閣府副大臣の平将明氏は7月31日、COCOAによる陽性者登録数が76人に達したことを発表したが、COCOAを通じて判明した感染リンクの事例も挙がり始めたことで、今後はさらなる認知が進んでいくことが期待される。

 「950万以上というダウンロード数は“政府提供アプリ”として普及速度は期待以上の成果」と平副大臣が自己評価するように、今後のコロナ第二波、第三波を見据えた上でのスタート地点としては、決して悪くはない数字であるだけではなく、希望が見える数字だと思うからだ。

 しかし、本当にCOCOAが世の中を変えるためには、利用者自身がCOCOAについてもっと知り、また周囲に啓蒙していく必要がある。

厚生労働省がリリースした新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」の現状について説明する内閣府副大臣の平将明氏

COCOAは本当に感染者を減らすことができるのか

 COCOAに関連しては、安倍首相が「アプリが人口の6割近く普及し、早期の隔離につなげることができれば、大きな効果が期待できる」と発言。6割という高い普及率設定が話題になった。単純な数だけの話で言えば、7200万人以上がインストールしなければならない。950万人という数字は小さく見える。

 ところがこの6割という数字。英オックスフォード大学の試算が、試算時の条件や考え方を無視して一人歩きした結果が、さらに二次引用する形で本来の意味を失っているという側面もある。そもそも試算は“ロックダウン不要となる普及率”を、他の抑制効果を考えずに試算したもので、それよりも低いからといってアプリの効果がゼロになるわけではない。

接触確認アプリの概要(出典:厚生労働省)

 7月31日には日本大学生産工学部がCOCOAを用いて感染者を半減させるために必要な条件をシミュレートした結果を発表した。これによると、

  • 人口の80%がアプリを利用し、接触者は外出を20%控える。
  • 人口の60%がアプリを利用し、接触者は外出を40%控える。
  • 人口の40%がアプリを利用し、接触者は外出を60%控える。

という3つの条件で感染者は半減するとの結果が出たという。

 さらには、

  • 人口の40%がアプリを利用し、接触者は外出を40%控える。
  • 人口の60%がアプリを利用し、接触者は外出を20%控える。
  • 人口の20%がアプリを利用し、接触者は外出を80%控える。

という条件を達成すれば、感染者数は3分の2に減らすことができる。

 これらが他の抑制効果を考えずに試算したものであることはオックスフォード大学のシミュレーションと同じで、実際にはその他の感染対策によって複合的に感染者を抑えることができる。

 リリース以来、さまざまな説明、議論が繰り返されてきたが、COCOAをインストールする利用者のデメリットは無に等しい。もしあるとすれば「プライバシーが侵害される“気がする”」という気持ちの問題ぐらいだろう。

 感染者数を減らせるのか? という問いそのものがナンセンス。減らすために、利用を促すことが、自分自身や家族、地域社会を守ることになる。グローバル全体を見渡すと、その手法やプライバシーデータの扱いこそ異なるが、感染リンクをアプリで追うことが感染症拡大を抑制することに疑問の余地はない。

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