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フォグゲーミングでゲーム体験はどう変わる? 提供スタイルは? 西川善司がまとめて質問に答えるクラウドゲーミング? いいえ、フォグゲーミングです(1/3 ページ)

» 2020年07月22日 12時25分 公開
[西川善司ITmedia]

 セガが何かとてつもないことをやろうとしていると、世界中で話題となった特大スクープは、“フォグゲーミング”であることが分かった。今回はその発端となった西川善司さんによる解説の、さらに詳細な続編をQ&Aを含め、お届けする。前編はこちら。


 ある程度人口の多い街にはゲームセンターがある。各ユーザーにとって最寄りのゲームセンターをデータセンターとして割り当てることで、クラウドゲーミング的なオペレーションを行う「フォグゲーミング」の概念は分かった。

photo フォグゲーミングの概念図

 そしてこのフォグゲーミングの仕組みがクラウドゲーミングで問題となるユーザーとサーバ間の距離に起因する遅延を効果的に低減できそうだという見通しも立った。

 では、前編で提起した、設備コストと運用コストの問題はどうなるのか。

 各ゲームセンターにて現在動作中のゲーム筐体に収められたシステム基板は、当然フォグゲーミングシステムには対応していないわけで、フォグゲーミング構想を実現するためには既存のものから新システムへ置き換える必要がある。

 この「置き換え」は確かに設備投資となる。

 ただ、この設備投資、ゲームセンターにとっては定期的に行われているものだ。そう、セガのゲーム向けシステム基板は4年から5年のサイクルで新しいものに置き換わっているのだ。

 立ち戻れば、1980年代から2000年代初頭までのそうしたシステム基板はセガ独自設計のものや、セガの同時代の家庭用ゲーム機ベースのものだった。これが2000年代中盤のLINDBERGH(代表作「バーチャファイター5」)からは、いわゆるWindows PCに近い設計のものへと変貌していき、現在に至っている。現行品は2017年にリリースされた「ALLS」(Amusement Linkage Live System)だ。普通に考えれば次世代以降のシステム基板がフォグゲーミング対応になるのだろう。

photo アーケードゲーム用コンテンツ配信サービス 『ALL.Net P-ras MULTIバージョン3』の筐体。内包されるシステム基板は「ALLS UX」

 こうしたシステム基板の刷新は、歴史的にはビッグタイトルのリリースとともに行われる傾向にあり、フォグゲーミング対応のシステム基板への更新もそうしたタイミングで検討されているはずだ。

 現在のシステム基板は多くの場合、「1筐体に1基」を内蔵させて運用するスタイルが主流だが、もしフォグゲーミング対応世代のシステム基板が仮想化技術(あるいはそれに準じた疑似技術)などを用いるなら、その原則にとらわれる必然性はなくなる。つまり、1基のシステム基板で複数台のゲーム筐体に対しゲーム体験を提供するような実装もあり得るはずなのだ。

 そもそもフォグゲーミングは、ゲームセンターへの来客、すなわちゲーム筐体前に着座したプレイヤーにゲーム体験を提供する以外に、店舗外のプレイヤーにもゲーム体験を提供できるシステムなのだから、1基のシステム基板で複数人向けのゲーム体験の提供が行える性能を持ったとしても不思議ではない。

 「1システム基板で複数台の筐体にゲーム体験を提供」でき、なおかつ「店外のプレイヤーにもゲーム体験を提供」できるとしたら、そのシステム基板の導入時のコストパフォーマンスは、これまでのシステム基板刷新時よりもよいものと見なせるかもしれない。

 運用コストについてはどうか。

 現在の、「1筐体に1基」のシステム基板がでゲームを稼働させる現行ゲーム筐体の運用スタイルでは、一部の観光地の店舗や人口密集地の店舗を除けば、平日の午前から昼間にかけてのシステム基板の利用率(≒収益率)は高くない。そうした時間帯に、店舗外のプレイヤーにサービスを提供可能なフォグゲーミング方式でゲーム体験を提供できれば、現行システムよりは利用率(≒収益率)は上げられるはずである。ゲームセンターの営業時間外にこのシステムを稼働させて、店舗外プレイヤーへのゲーム提供に注力させるような運用スタイルも可能だろう。

 もちろん、そのゲームセンター店舗の地域特性によっては、フォグゲーミング対応化が合わない場合だってありうる。そもそもビデオゲーム自体が不人気でプライズ系筐体に注力している店舗や、あるいはレトロゲーム人気が高い店舗では、フォグゲーミング対応ゲーム基板への移行自体に消極的となるかもしれない。ゲームセンターの経営方針として、フォグゲーミング対応は時期尚早と判断することだってあるだろう。その場合は、フォグゲーミング対応システム基板を導入しても、「1筐体に1基」のスタイルで運用することもあり得なくはない。

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