いろいろなパーツを組み合わせて自分好みの1台を作る「自作キーボード」について紹介する本連載。前回はキーボードの顔ともいえる、キーボードを彩る「キーキャップ」の魅力について紹介した。
「自作キーボード」と検索するといつも見慣れた形状のキーボードより、キーが極端に少なかったり左右に分かれていたりと珍妙なものが多く見つかることだろう。今回はそんなキーボードの「キー配列」に注目し、種類や使い分けなどをお伝えしたい。
自作キーボード「Fortitude60」作者。自作キーボードの基本から設計方法までまとめた同人誌「BUILD YOUR OWN KEYBOARDs」を執筆。
自作キーボードの作者であり、キーボード関連のニュース動画「ほぼ週刊キーボードニュース」を配信するぺかそとびあっこが、自作キーボードの世界の“入り口”を紹介していく。
本連載を執筆するぺかそ氏とびあっこ氏が、TBSテレビの番組「マツコの知らない世界」の7月21日放送回「知る人ぞ知る味わい深い『埼玉うどんの世界』&『キーボードの世界』」に出演することが決まりました。番組は21日午後8時57分から。
われわれが日々使っているキーボードは元をたどると、活字を印字する機械であるタイプライターの文字盤だ。この連載を読む読者の多くは日本語を扱い、キーが100個ほど並んだJIS配列(いわゆる日本語配列)のキーボードを使っているだろう。
キーボードのキー配列は「物理配列」と「論理配列」の2つの要素で構成されている。
物理配列はキーがキーボードの基板上でどのように配置されるかを決定し、論理配列はそのキーを押すことで入力される文字や記号の配置を決定する。これらには理論的に効率の良さを求めたものや、卓上に置いたときのコンパクトさを追求したものなど設計の方向性によってさまざまなものがある。
家電量販店などで購入できるキーボードの多くは、基本的な配列からキー配列を大きく変えることは少ない。小型のノートPCなどではその小さい筐体にキーボードを詰め込む関係でいわゆる「変態配列」になりがちだが、通常は「大半の人が使い慣れてて、移行しやすい」汎用的な配列だ。
しかし、特に自作キーボードにおいてはそれぞれが独特な特徴を持ったキー配列を持つ。もちろん汎用的なキー配列もあるが、自作キーボードはキー配列も独自のものにできるため、パーツ選定の“沼”と並び「もう一つの沼」とも呼ばれる。次に物理配列と論理配列に分けてそれぞれの分類を紹介したい。
手の大きさや指の長さは人により異なるため、世の中のキーボードにはさまざまな物理配列がある。大まかに二分すると、キーを少なくして指の動きを最小限にすることで指が疲れないようにする方向性の配列と、肩や手首の負担を軽くするように人間工学(エルゴノミクス)に配慮してキーを配置する配列がある。
ちなみに、キーボードやノートPCのレビュー記事などでよくノギスを当てて「キーピッチは約19mm、フルピッチだ」と書かれているのを見掛けることもあるだろう。キー同士の間隔、つまりキーピッチは米国の「ANSI/HFES100」という規格で定められている。「フルピッチ」は厳密には0.75インチ=19.05mmであり、人間工学の研究から求められた値だ。
キー入力の際に最も動かす部分は指先である。入力効率が悪くなる原因の一つは指先の疲れだ。手のひらより広いキーボード上で、指先を目的のキーに向かって動かすのは時間がかかり、指の負担にもなる。であればキーの数を削ってしまえば指の動きは少なくなり、キーボードも小さくなる。机に置きやすくなるので一石二鳥である。
テンキーまで含んだ、およそ100個のキーを持つ全部盛りの物理配列は一般的に「フルキーボード」と呼ばれる。デスクトップPCの付属品や、15インチ以上の大型のノートPCで見られる。自作キーボード界隈(かいわい)ではこれを基準として「100%キーボード」と呼ぶこともある。
フルキーボードからテンキー部分を除いた配列をテンキーレス、略してTKLとも呼ぶ。テンキーが無くなった分横幅が狭くなるので卓上にコンパクトに置けることからも、フルキーボードと並んで家電量販店でも入手しやすい。
テンキーレスからさらにファンクションキーなどを除いた「60%キーボード」も自作キーボードではよく見る物理配列だ。理由はキーが隙間なくみっちり詰まってコンパクトに収まっていることと、キットの流通量が多いことが挙げられる。ファンクションキーや矢印キーはノートPCの明るさ変更キーのように、「レイヤーキー」と呼ばれる特殊なキーとの同時押しになる。
一見するととっつきにくい配列のようにも見えるが、ホームポジションを崩さずにファンクションキーや矢印キーを入力できるのが魅力だ。この分類の中では代表的なキーボードの一つであるPFUの「HHKB」が、文字を大量に入力するプログラマーに人気であることがその証左だ。
さらにキー数が少ない超コンパクト配列(40%キーボード)は、慣れが必要かどうかというレベルを超えその人専用キーボードと化す。記号もバッサリ削った配列は、同時押しやキーの二度押しなどテクニカルな打鍵で入力できるようカスタムされていることが多い。ある意味「キー配列沼」を体感するにはちょうどよいキーボードかもしれない。
キー数による分類で取り上げた例では、全てキーが列ごとにずれた配列を持っていた。これはタイプライターの名残とも言われているが、このような列や行ごとにずれているものを「Staggered(千鳥) Layout」という。上記の例のように行ごとにずれたものをRow-Staggered Layout、列ごとにずれたものをColumn-Staggered Layoutと、方向別に呼び分けられる。
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